第31章 新しき幕開け
腕組みしながら、うんうん考え込んでしまった。
「そんなに無理して思い出作らずとも、こうやって過ごしてる毎日が思い出になるんだろ。ここは素直に勉強……」
リアリストな意見を大地が述べたところで、スガは引かなかった。大地を押し切るように、スガが声を張り上げる。
「ファミレス!」
「は?」
「ファミレスに行くべ!」
「急に何言ってんだ、スガ」
思い出作りの場にファミレスを選ぶスガのセンスはともかく、勉強するんじゃなかったら俺はなんでも良かった。困惑する大地をよそに、俺とスガはファミレスに行く気になっていた。
「あー、ほら、部活の事とか話したいしさ! 図書館だと話できねぇべ? 勉強も大事だけど、一ヶ月後には春高の一次予選があるんだぞ?」
スガの言う通り、約一ヶ月には大事な試合が控えている。
春高に行くためには、まずは一ヶ月後の一次予選を突破しなければならない。
昨日までの合宿で、自分達の力不足を痛感させられた。
全国への切符を手にするには、まだまだ努力が必要なのだ。
「まぁ、確かにな。…じゃあ、行くか」
「さすが大地。話が分かるね」
「……つーか、ファミレス行かないとダメな流れだったろ、今の」
渋々納得した大地を連れて、俺達はファミレスへ向かった。
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「おっ、期間限定『激辛麻婆豆腐』が出てる!」
テーブルに広げられたメニューの一つに、スガの好物の麻婆豆腐が載っていた。スガ曰くただの麻婆豆腐ではなく、花椒入りの四川風でとびきり辛いメニューらしい。
嬉しそうにその味を解説してくれるスガだったけど、聞いてるだけの俺と大地はその辛さを想像して汗が出てきてしまう。胃も痛くなってきたような……そんな錯覚におそわれるくらい、スガの味の解説は妙に生々しかった。
「夕飯食えなくなるから、今日はやめとけよ」
「分かってるよ。今度来たら食う」
テーブルの上のメニューをひとまず脇に置いて、一次予選に向けて色々と話をすることにした。
「合宿で思ったんだけどさ」
水を一口飲んで口を開いたスガの目が、いつになく真剣になる。先ほどまで喜々として麻婆豆腐の話をしていたスガの雰囲気は全くない。その変わりように、俺と大地の意識も自然と硬くなる。