第30章 夏の大三角形
「良かったなぁ、晴れて。年に一度の逢瀬だもんな……」
そう言って星空を見上げる東峰さんの横顔はどこか寂しそうで、見ている私の胸はつきんと痛くなった。
事情はよく分からないけれど、東峰さんは好きな人に会えないでいるから……滅多に会えない、織姫と彦星に自分を重ねているのかもしれない。
好きな人に会えないって、どんな気持ちなんだろう。
実際にそうなった経験がないから、寂しいとか辛いんだろうな、っていう漠然とした感情しか湧かない。
だけど、寂しそうに星空を見上げる東峰さんの顔を見ていると、少しだけ、その気持ちが分かるような気がした。言葉に表すのは難しかったけど、東峰さんの顔にはその苦しい胸の内が滲み出ているようだった。
「いつまでもここにいたら風邪ひくな。谷っちゃんも日向も、中に戻った方がいいよ」
「あっ、そうですね! 私カゴ片付けてきます」
東峰さんと日向と別れて、急ぎカゴを片付けに行った。
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カゴを片付け終えて、女子マネに割り当てられた部屋に戻ると、清水先輩にお風呂に誘われた。
入浴セットを準備して、他のマネの人達と一緒に浴場へと向かう。
その途中、夜久さんに声をかけられた。
それまで話したことも無かったし、さっきの東峰さんとのやり取りのこともあったから、ちょっと気まずい。
「君さ、美咲ちゃんのこと知ってる?」
「…いえ、私は……」
「あー…そうなんだ。そっか、ごめん引き留めて」
「いえ……」
夜久さんはそれだけ確認するとさっさとその場を立ち去ってしまった。何故、夜久さんが私に美咲ちゃんという人のことを尋ねたのか不思議に思った。隣にいた清水先輩は微妙な顔をしていて、それもまた不思議だった。
思い切って、清水先輩に聞いてみよう。あれこれ首をつっこむつもりはないけど、あんな風に聞かれてしまっては、気になってしまうのも仕方ないと思う。
「……あの、清水先輩。美咲ちゃん、ってどなたですか?」
「……隠すことでもなかったんだけど……黙っていて、ごめんね」
何故か清水先輩が謝った。理由が分からなくて、首をかしげてしまった私に、清水先輩は『美咲ちゃん』について話をしてくれた。