第30章 夏の大三角形
「? 旭さん、夜久さんと仲いいんですか?なんか珍しい組み合わせ…ですね!」
「ん?仲がいいというか……ライバル、だな」
日向の言葉に、東峰さんがどこか含みのある言い方で返事をした。日向はきっと、バレーの上でのライバルだと受け取ったと思う。けれど、さっきの話からすると、東峰さんの言葉にはそれ以外の感情も含まれていそうだった。
東峰さんの視線がふいにこちらを向いた。咎められるような気がして、思わず身構えてしまう。
「……谷っちゃん。…俺と夜久の話、もしかして聞いてた?」
「っ、ごめんなさい! 盗み聞きするつもりは……!」
「あ、いや……別に、構わないんだけど……」
東峰さんはどこか気まずそうにしている。私も聞く気は無かったとはいえ、思いがけず東峰さんの恋愛話を聞いてしまって、どんな顔をしていいのか分からない。
「あー……その、さっきの話、他のやつには内緒な」
「は、はい!」
「?」
日向には話が見えなくて気になっただろうけど、目の前で「内緒」だと言われた話の内容を聞き出すことは、さすがに日向もしなかった。少し気にしているような感じはしたけれど、私も東峰さんも曖昧に笑うだけだった。
「……あ」
「?」
ふと、東峰さんの視線が私を通り越していく。遥か上空を見つめているのが分かって、私も同じように空を見上げた。
「ここ、星が意外と見えるんだな」
「ホントですね。あ、夏の大三角形見えますよ!」
「おー! 綺麗な三角形だな」
感嘆の声をあげる東峰さんとは対照に、日向はどこに三角形があるのか必死で探している。
「谷地さん、どの星?」
「ほら、あれ、あの明るい星。三つ見えない?」
日向のそばに立って、夜空を指さす。私の指先をたどって、日向の目が夜空にひときわ輝く明るい星を捉えた。
「あれか!」
「織姫と彦星と……もう一つなんだったっけ」
「白鳥座のデネブですね」
東峰さんの問いに答えると、日向が目を輝かせてこちらに顔を向けた。
「谷地さん頭いい!!」
「ええっ、そんなことないよ」
日向が大袈裟に驚くものだから、ちょっと気恥ずかしい。そんな私達のやり取りを、東峰さんが微笑ましく見ている物だから、余計に顔が赤くなった。