第30章 夏の大三角形

　美咲ちゃん、って誰だろう。どうやら東峰さんと夜久さんは、その美咲ちゃんって人を探しているらしいことは分かった。どんな関係の人なのかは、さっぱり分からないけど。

「いや、新しいことは何も」
「美咲ちゃんのお母さんは? 話、出来ない感じか?」
「何回か、話聞きに言ったんだけど、門前払いだった。もう黒崎のことは忘れて、って言うばっかりで」
「そうか……」

　夜久さんの言葉以降、重い沈黙が広がっていた。物音を立てるのも気が引けて、私はその場でじっとするしかなかった。こんな風に聞き耳をたてるのはよくないことだと分かっているけど、動くに動けない。

「……話は変わるけど、お前のとこ新しいマネージャー入れたんだな」
「……うん。部員のサポートする人間が来年も必要だって、清水がな」
「細かいことやってもらえると助かるのはあるだろうけど……東峰は複雑じゃないのか?美咲ちゃんの代わりが出て来てさ」
「俺? 俺は、別に……」
「……お前、美咲ちゃんのこと、好きだろ?」

　夜久さんの言葉に、東峰さんは言葉を詰まらせているようだった。音声しか情報がないから、断言はできないけど、今東峰さんはきっと困惑した顔をしているのだろう。

「えっ、お、俺は……」
「そんで多分、美咲ちゃんもお前のことが好き。だろ?」
「黒崎の気持ちは……分からないよ」
「告白、してねぇの?」
「こっ、こくっ、告白っなんて」

　東峰さんの声が裏返った。顔を見ずとも、東峰さんの動揺っぷりが伝わってくる。そうか、美咲ちゃんという人のことを、東峰さんは好きなんだ。

　でも東峰さんの好きな人を言い当てるなんて、夜久さんと東峰さんは仲良しなのかな?
朝の様子とか、さっきの様子を見ている限りでは、そんな感じはあまり見受けられなかったんだけど……。

「してないんなら、俺にもまだチャンスありそうだな」
「えっ……」
「いい機会だから宣戦布告しとく。俺も美咲ちゃんのこと、好きだから。美咲ちゃんと連絡が取れたら、気持ち伝えるつもりでいる」

　また東峰さんは言葉に詰まったのか、夜久さんの宣戦布告に何も言わなかった。こんなところで先輩達の三角関係を知ることになるとは思ってもみなかった。