第30章 夏の大三角形
膝から崩れ落ちた音駒の人から私をかばう様に、清水先輩が手を広げる。目の前で天を仰ぎ見るその人のモヒカンが目について仕方ない。
さすが東京。見た目も言動も派手だ。
そんなモヒカンの人にすっと近づいてきた影は、田中さんのものだった。田中さんはモヒカンの人の肩に静かに手を置き、穏やかな笑みを浮かべていた。
「龍、烏野には三人もマネがいるのか……?!? ひ、一人わけてくれっ!!」
「あっ虎、その話は!」
それまで穏やかな仏像のような笑みを浮かべていた田中さんの顔が急に焦った顔になった。モヒカンの人の口元を勢いよく手でふさぎ、それ以上言葉を発しないように田中さんは抑え込んでいる。
一瞬、田中さんと東峰さんの視線がかち合った気がした。場の空気に変な緊張が走った感じがする。理由は分からないけれど、さっきのモヒカンさんの発言が引き金みたいだ。
『三人もマネがいるのか』
烏野のマネージャーは、清水先輩と私だけのはず。清水先輩以外にマネージャーがいないから、下級生のマネージャーを探していて、私がやってきたはずだ。
そのはずなのに、モヒカンさんは『三人』だと言った。訳が分からなくて、清水先輩に視線をやった。清水先輩に聞こうかと思ったけれど、先輩は「行こう」とだけ言って、歩き始めてしまった。
とてもさっきのことを聞ける雰囲気じゃなくて、黙って清水先輩の後をついていく事にした。
「なんだよ、龍、いきなり」
「悪ぃ、虎。ちょっと込み入った事情があってよ……」
「あぁん? 事情?」
「……実は……」
田中さんとモヒカンさんの会話が背中越しに切れ切れに耳に入ったものの、詳しいことは分からないまま合宿は始まってしまった。
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「初めまして~。梟谷の白福です~」
「雀田です。初めまして、よろしくね」
今回の合宿でお世話になる梟谷高校のマネージャーさん二人が、合同合宿に初参加の私達に色々と案内してくれることになった。
「谷地さんは一年生?」
「はい!」
「あはっ、元気いいね! 烏野はいいなぁ、後輩マネいて。うちらみんな三年だから、後継者いないんだよね」
「来年は谷地さん一人になっちゃうかもね、マネ」
「えっ!」