第30章 夏の大三角形
7月7日、深夜。
まだ辺りは闇に包まれている。見慣れた町並みがいつもと違って見えて、過ぎ行く景色に少しだけワクワクしてしまう。
こんな時間に起きていることなんて滅多にないし、これからのことを考えると、私の胸はどんどん高鳴っていく。変な時間に起きたから体は睡眠を欲しているけど、目はパッチリと冴えている。
「着いたら起こすから、寝ててもいいのよ?」
「うん……でも目が冴えちゃって」
「今からそんなんで大丈夫なの? 合宿中に倒れたりしないでね。サポートする側のマネージャーが倒れちゃダメよ?」
「うん、気を付けるね」
バックミラー越しに、お母さんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。バレー部のマネージャーになるって決めてからも、お母さんは私がちゃんと部の中でやっていけるのか心配みたいだった。
そんな中、正式入部して間もないというのに遠征合宿に参加することになったから、お母さんは余計に心配しちゃってるんだと思う。
合宿先が東京だから、こっちを深夜に出発しなくちゃならなくて、そういうのも小さな心配の種になってるみたいだった。
お母さんは厳しい人だけど、その分私のことを心配してくれている。それが分かるから、私はお母さんの言葉に素直に返事をした。
「……頑張ってね。体調には気を付けるのよ」
「うん。頑張る! 送ってくれてありがとう、お母さん。気を付けて帰ってね」
学校の前で車を降りて、校門を目指す。
マイクロバスが見えた時には、その近くに黒い集団も見えた。
「谷っちゃん、おはよ」
「東峰さん、おはようございます!」
眠そうな目をした東峰さんが、挨拶してくれた。初めて会った時は、大きいし髭生えてるし長髪だし、めちゃくちゃ怖い人だと思っていたけれど、実際の東峰さんは優しい先輩だった。
見た目で人を判断してはいけない、という好例だと、私は思う。
入部してしばらくしても東峰さんに怯えていた私に、東峰さんは嫌な顔一つせずに優しく接してくれていた。菅原さん達と一緒に『谷っちゃん』ってあだ名をつけてくれて、部に馴染めるよう気を使ってくれた、優しい先輩。
男子ばかりの集団に入るのも初めてだったし、マネージャーという仕事をするのも初めてで、不安でいっぱいだったけれど。
優しい先輩達のおかげで、合宿を楽しみにしている私がいる。