第29章 切れた糸の先
東峰の声には実感がこもっていた。俺は直接お祖母さんに会ったことがないからよく分からないが、実際に会って話をした東峰が言うならそうなのかもしれない。
「でも、ライン送れるってことは携帯は解約されてないってことだろ? ならいつか美咲ちゃんから返事があるかもしれないよな?」
すがるように、俺はそんな言葉を口にしていた。後から思えば、あの時は誰かに「大丈夫」だと言って欲しかったんだと思う。それがたとえライバル視している相手だったとしても。
『解約とかそういうのは分からないけど……今は、向こうから連絡くるの、待つしかないな』
きっと、東峰も「大丈夫」だと思い込みたかったはずだ。俺と同じでいるのなら、きっと。
俺達はお互いに、言葉にはしなかったけれど「大丈夫だ」と確かめ合った。
ふいに、電話口から息を吸い込む音が聞こえた。
次に聞こえてきたのは、先ほどまでよりか少し力を取り戻したような東峰の声だった。
『あのさ……、夜久は黒崎の家の事について色々知ってるんだろ? お祖母さんの事とか、何か知らないのか?』
「……知らない。ばあちゃんがいるなんて初耳だし」
『そっか……』
知らない、なんて言いたくは無かった。言ってしまったら、東峰に負けるような気がしたから。だけど事実、俺は何も知らない。
俺が知っているのは、もう何年も前の、小学生の頃の美咲ちゃんの事だけ。
「アテが外れたって感じだな。悪かったな」
『いや、そんな』
「……昔ならいざ知らず、今なら俺より東峰の方が美咲ちゃんのこと詳しいんじゃねぇか?」
『……』
棘のある発言だったかもしれない、と言い終えてから思った。
東峰も黙ったまま何も言ってこなかったから、俺のどろっとした感情に気が付いたかもしれない。
顔が見えない分、声音でしかお互いの様子を推し量る事が出来ないから、余計に。
「……美咲ちゃんの居場所が分かったら、俺にも教えてくれないか?」
『…おう、分かった』
澤村経由でお互いの連絡先を交換することにして、電話を切る。スマホを黒尾に返すと、黒尾のニヤニヤした顔は引っ込んでいた。いたって真面目な顔で俺を見ているものだから、調子が狂う。
「電話、ありがとな」
「どういたしまして。……マネちゃんと連絡つきそうか?」