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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第29章 切れた糸の先


 少し間があって、電話口の声が変わった。その声を聞くと、印象の強かった東峰の髭が頭に浮かんでくる。

 東峰旭。俺の、ライバル。

『も、もしもし…電話代わりました、東峰です』

 俺の気持ちとは裏腹に、東峰の声は弱々しいものだった。こっちは戦う気満々でいるのに、向こうは逃げ腰のような感じがして、なんとなく気が抜けてしまった。

「東峰。お前の知ってること、全部教えて欲しい。美咲ちゃんのことで、知ってること、全部」
『……黒崎は……』

 美咲ちゃんの話をしている間、東峰の声は終始力ない弱々しい声だった。試合の時に見た雄々しい姿はまるで想像できないくらい、別人に思えた。

 多分、相当落ち込んでいるのだと思う。俺と同じように、姿を消してしまった美咲ちゃんのことを想っているのだろう。

 ライバルなはずなのに、東峰の肩を叩いて励ましてやりたい気になってしまう。俺も東峰も、美咲ちゃんを想う気持ちは同じなんだ。

 力ない声で東峰は事の次第を俺に話してくれた。
向こうが俺のことをどう思っているかは知らないが、彼は包み隠さず全部俺に話してくれたようだった。

 東峰の話を総合すると、美咲ちゃんは亡くなったお父さんの代わりに当主となるようお祖母さんに引き取られていったということらしい。

 その行先はいまだ不明だそうだが、美咲ちゃんの母親とお祖母さんが交わした文書によると、東京のどこか、ということだけは分かったそうだ。

 当主だとか、今まで連絡一つよこさなかった金持ちの親戚だとか、なんだかドラマの中の話みたいで、にわかには信じがたかった。

 けれどこんなことで嘘をついたって仕方がないから、東峰の話はきっと本当のことなのだろう。

「…大体話は分かった。でも、なんで連絡取れないんだ? 養子になったって、連絡くらい出来るよな?」
『憶測、だけど。お祖母さんは今までの黒崎の生活の全てを消したいんじゃないかって。……お祖母さんの家を継ぐにふさわしい人間に育て上げるために、それまでの一切合切無かったことにしたいんじゃないかな』
「なんだ、それ。意味分かんねぇよ」
『俺も分かんないよ。……でも、あの人ならそんなこと考えそうだし、実際やりそうだと思う』
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