第29章 切れた糸の先
「あーダメだねやっくん。顔に『ハイそうです。問題発生しました』って書いてあるぜ。嘘つくならもっと上手に嘘つかないと」
黒尾のニヤリとした顔にムカつきを覚えた。
なんでか毎回黒尾には美咲ちゃんのことで絡まれてる気がする。一番知られたくない相手に、こうも色々と事情を知られるのは本意ではない。
「なんなら俺もお役に立ちましょうか?」
「……なんだよ、役に立つって」
「烏野主将なら、連絡つけられるけど。ちょうど今さっきラインやり取りしてたとこだし、電話出来るかもよ」
「マジか!?」
黒尾の言葉に思わず飛びついてしまった。
口端をあげてニヤリと笑う黒尾の顔を見て、しまったと思った時にはもう遅かった。
なんだかんだいつも黒尾に頼ってしまっている。それがこの上無く腹立たしいが、目的のためなら手段を選んでいられない。
「……頼む。美咲ちゃんと連絡つかなくなって、心配なんだ。事情を知ってるやつから話を聞きたい」
「了解」
黒尾の顔には「おやいつになく素直だな」と書いてあるような気がする。なんか負けたような気分だ。けれどなりふり構っていられない。
美咲ちゃんのことで何か一つでも分かれば、気持ちも落ち着くんじゃないか。そう思いながら、黒尾がスマホをいじるのを見つめていた。
少しして、黒尾のスマホがブルブルと震えだした。電話に出た黒尾が烏野主将に事情を話して、俺にスマホを差し出してきた。
サンキュ、と小さく言ってスマホを受け取る。
「もしもし、夜久です。電話ありがとう」
『澤村です。事情は黒尾から聞いたよ。黒崎の事な……』
「3日の日から連絡がつかなくなったんだ。ラインも既読つかないし、電話もかかんなくてさ。チビちゃんは『転校した』って言ってたみたいだけど、どういう事? 知ってること全部教えて欲しい」
堰を切ったように、俺は澤村に対して言葉を並べていた。不安でたまらなかったからだろう。聞きたいこと知りたいことがいっぱいあった。
なのに電話越しの澤村は歯切れの悪い返事で、俺は余計に不安を煽られてしまう。
『……実は、俺にもよく分からないんだ』
「分からないって、どういう……」
『3日の、朝にな―……』