第29章 切れた糸の先
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「夜久くん、翔陽から返事来たよ」
「なんて?!」
昼休み、チビちゃんからの返信が気になって、研磨の教室に顔を出した。そしたら研磨が俺の顔を見るなり、返信があったことを教えてくれた。
研磨に詰め寄りながら、内容を尋ねると、研磨はあからさまに身を引いた。眉間に皺を寄せつつも、スマホの画面を俺に見せてきた。
『黒崎さん、転校してった』
表示された返信は、たったその一文だけだった。
転校?
そんな話、一言だって聞いてない。寝耳に水の俺は何度も確かめるようにスマホの画面に浮かぶ文字を読み返す。いくら読み返したところで、内容は変わらないと分かっているのに。
睨み付ける様に画面を見つめる俺に、研磨は少しずつ俺の顔からスマホを離していった。
「おい研磨、チビちゃんの電話番号も知ってるよな?」
「……知ってるけど」
「番号教えてくれねぇか? 直接聞かないと腑に落ちねぇ」
「一度翔陽に確認取ってからね」
言うと研磨はまた鮮やかな指裁きで、文字を打ち込んだ。
すぐに返事が来るかどうかは分からない。今すぐにでも、烏野の誰かと話がしたかった。
美咲ちゃんが、いつ、どこに、なんで転校していったのか。
なんで俺に黙っていたのか、今連絡が取れないのか。
美咲ちゃんとの繋がりが消えていきそうな気がして、一刻も早く連絡をつけたいと思った。
「おや、夜久さん。チビちゃんの番号知ってどうすんの?」
いつものようにニヤリと嫌な笑顔を浮かべた黒尾が、俺の肩にもたれかかってきた。ずしっと重たくなった肩を手で払いのけて、黒尾を一瞥する。いつの間に横に来ていたのだろう。気配を消すのは猫並みに上手いな、なんて変なとこに感心してしまう。
「どうだっていいだろ」
「主将としては気になるんだよねー。後輩に詰め寄る先輩の姿を見ちゃったから」
「詰め寄ってねーよ。…別にわざわざ報告するほどのもんでもねーし」
弱みを握られそうな気がして、そっぽを向く。けれどそれが余計に黒尾の気を引いてしまったのか、興味津々といった顔で黒尾は首をつっこんできた。
「烏野マネちゃんとなんかあった?」
「は? 別に? ……てか、なんでそーいう話になるワケ?」