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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第28章 それでも前に進め。



 黒崎がいなくなってから、あっという間に三週間ほど過ぎた。

 その頃には、谷地さんが正式にマネージャーとしてバレー部に入部していた。そうなると、ますます黒崎のことが皆の中から薄れていくような気がした。俺を気にして、黒崎の名前を口にする奴はほとんどいなかったから、余計にそう思ったのかもしれない。

 けれど、帰り際にふと皆のスポーツバッグであの小さなユニフォームのお守りが揺れているのが目に入った。フェルトで出来たお守りは、少し毛羽立っている。それが黒崎がいなくなってからの時間を表しているようで、つきん、と胸が痛くなる。

 それでも、懸命に揺れるお守りに、俺は確かに黒崎が皆の心のどこかにいるのだと、感じていた。


******

「谷地さん、タオルちょうだい」
「ひっ?! あっ、は、はい!!」

 谷地さんが入部してから、しばらく経った。だけど谷地さんは俺の容姿にいまだ慣れないのか、声をかければ驚かれ、怯えられる日々が続いていた。

「大丈夫だよ、谷地さん。コイツ見た目だけで、中身はへなちょこだから」

 スガがフォローのつもりで吐いた俺への暴言に、谷地さんはどう反応していいのか困った顔。俺達の軽口を笑えるほど打ち解けるには、まだまだ時間がかかりそうだ。その前に、俺に怯えないようになってほしい……。

 分かってはいるんだけど、顔を合わすたびにビクビクされるのは悲しい。

「なぁ、旭。俺に考えがあんだけどさ」
「?」
「谷地さんと手っ取り早く仲良くなるには、やっぱり呼び方変えないとダメだと思うんだよね」
「呼び方?」

 そういえば、以前もそんなようなことをスガが言い出したことがあった。……あの時は、黒崎との距離を詰めるには、という話だった。結局その時は実践することは無かったけれど。

「苗字にさん付けだと、いつまでもよそよそしい感じするだろ? 下の名前を呼ぶまでいかなくても、名前もじったあだ名で呼ぶとかさ。お前の顔が怖いのは変えらんないから、呼び名だけでも親近感わくような呼び方してあげたらいいんじゃないかなーって」
「……さらりと酷いこと言うよな、スガ。」
「しゃーないべ、旭の顔が怖いのは揺るぎない事実だかんな」

にししと悪びれずに笑うスガに、俺はいつものように困った顔で笑い返す。
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