第28章 それでも前に進め。
そんな俺の気持ちが態度に滲み出てしまったのか、その後も谷地さんは俺に終始怯えていた。
彼女との初対面は、散々なものに終わったのだった。
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部活後、清水が申し訳なさそうな顔で近づいてきて、俺に謝罪をよこした。俺は何故清水が謝ってきたのか要領を得なくて、首をかしげてしまった。
「え? 何? 清水何か俺に謝るようなこと、したっけ?」
「……美咲ちゃんのこと、忘れた訳じゃないの」
「……」
言いにくそうにしながらも、清水の一生懸命な気持ちが伝わってきたから、俺は黙って清水の言葉に耳を傾けた。
「私も、東峰と同じように、美咲ちゃんに戻って来て欲しいって思ってる。……でも、現実的に考えたら、それは難しいことだとも思うから……この間、東峰達が部活続けるって話してたの聞いてね……私も私に出来ること精一杯やらなくちゃって思ったの。だから、新しいマネージャーの子を探すことにしたんだ」
清水の中でも、黒崎のことは無かったことになんて、なっていなかった。きっと俺より、清水は苦しんだんじゃないだろうか。今にも泣きだしそうな顔で、唇を噛みしめている清水を見れば、その苦しさがよく分かる。
黒崎の事、これからの事。
どちらも大事で、けれどどちらかを切り捨てなければ、先に進むことは出来なくて。清水は辛い選択を迫られたと思う。
それでも清水はチームの為に、新しくマネージャーを勧誘することを決めたんだろう。そんな清水の選択を、非難することなんて出来ない。もとより、そんなつもり俺には無かったけれど。
「うん。来年も、マネージャーいた方がいいからな。……俺のこと、気遣ってくれてありがとうな」
清水の気持ちが嬉しかったから、礼を述べた。けれど清水はそれに小さく首を振った。
俺はまだ、清水みたいに、他のやつらみたいに、気持ちを割り切ることは出来そうにない。いつになったら、仕方のない事だと諦められるのか、分からない。
……叶わないことだとどこかで分かっているから、諦められないのかもしれない。苦しい気持ちを抱いたまま、時間だけが過ぎていった。