第28章 それでも前に進め。
だけど、俺の中で黒崎の言葉がずっと響いて消えないんだ。
『私、みんなと春高に行くって決めてるんです!』
あいつを、あのオレンジコートに連れて行きたい。……たとえ、烏野のマネージャーとしてでなくても、春高の舞台に共に行きたい。
もしかしたら、黒崎が烏野に戻ってくることがあるかもしれない。またあの声援を背に、コートで戦えたら。そんな希望を胸に、俺はバレーを続けたいと、思った。
「……旭、お前の気持ちは痛いくらい分かる。あいつを連れて行ってやりたいんだよな、オレンジコートに。……俺だって、同じ気持ちだ」
言い淀んでしまった俺の気持ちを、大地が言葉にしてくれて、俺は力強く頷いた。
「……俺も、まだバレーやりてぇ。お前らと一緒に」
「みんなで春高、行こうぜ!」
「おう!!」
決意を新たにした俺達三人の話を、影で清水が聞いていたとは、この時の俺達は知らなかった。
そして、清水が他に決意をしていたことも、知る由は無かった。
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黒崎がいなくなってから、一週間が経った。黒崎がいないだけで、日常は今までと同じように淡々と過ぎて行った。
俺の心はいまだぽっかりと穴が空いたままだったけれど、それでも時間は皆平等に過ぎていくらしい。
『旭先輩、こんにちは!』
「おう、こんにちは……」
反射的に挨拶を返した俺を、田中が怪訝そうな顔で見ていた。田中の反応に、俺は先ほど聞こえてきた挨拶が幻聴だったのだと理解した。
黒崎の声がした方を振り返ってみると、そこにはただ空間が広がっているだけで、誰の姿も無かった。
「……大丈夫っすか、旭さん」
「ん、あぁ、ごめん。聞き間違いしたみたい」
「……」
田中達は気を使って、黒崎の名前を口にすることは無い。けれど、俺の様子がおかしい原因はハッキリと分かっているようだった。皆に気を使わせるのは心苦しかったから、俺もなるだけ気にしてない風を装っていた。
けれど、気を抜けばふと黒崎のことが頭をよぎってしまう。さっきみたいに幻聴が聞こえてしまうくらい、俺の心は黒崎の事でいっぱいだったから。
そんな俺をよそに、周りのやつらは現実をしっかり見据えているようだった。
ある日、清水が新しいマネージャー候補の子を連れてきたのだ。