第28章 それでも前に進め。
どのくらいそうしていたのかは分からない。動けずにいた俺達の時を動かしたのは、鳴り響く携帯の音だった。
バッグから取り出した携帯の画面には「スガ」の文字が表示されている。
「もしもし」
『旭、どうだった?! 美咲ちゃんに会えたか?!』
「……いや。もう、ここにはいないみたいだ……」
『マジか……美咲ちゃんの携帯に連絡は入れてみたか?』
「ラインも電話もしたけど、今のところ返事はないな……」
『そうか……家族の人は何て?お兄さんとかに会えた?』
「義明くん達も黒崎の行先知らないみたいだ」
『……旭、お前大丈夫か?』
「分かんねぇ。頭真っ白で……」
『旭、家に行ってもいいか? ちょっと話すべ』
スガの提案に、半分無意識で返答し、電話を切った。
「私達、あの子の居場所調べてみる。母なら何か知ってると思うし……何か分かったら旭君に連絡する」
「お願い、します」
力なく頭を下げ、その場を辞した。黒崎がいないと分かってから俺の意識は半分真っ白になったままで、その後どうやって家まで帰ったのか覚えていない。
気がつけば、部屋でスガに慰められていた。
「思いつめんなよ、旭。居場所分かんないっていってもさ、携帯だってあるんだし、そのうち連絡取れるって。今は向こうもバタバタしてんだよ。落ち着いたら連絡あるって、絶対」
スガの言うことはもっともだと思う。本人が納得していないまま連れて行かれたんだ。戻ってこられないにしても、何らかのアクションを黒崎はとるに違いない。
おばあさんも『今生の別れ』では無いのだと言っていた。ただ住む場所が離れるだけ。それだけのこと。それだけのことなのに。
何故こんなにも、胸が苦しくなるのだろう。
空っぽの抜け殻になったまま、時間だけが過ぎていった。
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翌日。インターハイ予選三回戦で敗退してしまった俺達は、昨日までの熱戦が嘘のようにいつもと変わらない日常を過ごしていた。
ただ、今後部活を続けるのか引退するのか、俺達は岐路に立たされていて、朝から三年は落ち着かない一日を過ごしていたと思う。
それに加えて、俺は黒崎の事が気がかりで、授業に身が入らないまま昼休みを迎えた。
「旭、お前はこれからどうする?」