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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第28章 それでも前に進め。


 眞莉亜さんの顔がみるみる真っ青になっていく。青い顔をしながら、眞莉亜さんは家の中へ向かって「義明!」と叫んだ。

 呼ばれて玄関まで出てきた義明くんは、青い顔の眞莉亜さんと俺を見て、怪訝な顔をした。

 嫌な予感が現実のものになりそうで、心臓の音がどんどん早くなっていく。黒崎の行方を知らねばならないのに、知ってしまえば決定打を自分で決めてしまうような気がして、耳を塞ぎたくなった。

「なんだよ、まだ片付け終わってねぇんだよ」
「……美咲が、いない」

 一瞬の沈黙の後、義明くんの顔から血の気がさぁっと引いていく。彼の反応を見れば、俺の嫌な予感は大当たりなのだろう。

「……朝、学校には来てたけど、黒崎のおばあさんが来て一緒には行けないって言って、それで」
「それで?! お前みすみすあいつを残していったのか?!」

 義明くんが掴みかかってきて、ぐっと義明くんの眼前に引き寄せられる。ぎりぎりと聞こえてきそうなくらい歯を食いしばっている義明くんに、俺は「ごめん」と言うしかなかった。

「家に帰ってきてないよ、美咲。朝、バレー部の応援に行くって言って、そのまま帰ってきてない」
「……あのババァ、連れて行きやがったのか……?!」

 黒崎のおばあさんの冷ややかな目が脳裏に蘇る。何度黒崎が嫌だと言ってもまるで聞く耳を持たなかった。決まったことなのだと何度も繰り返すおばあさんに、黒崎もなすすべなく立ちすくんでいた。

「で、でも、美咲の荷物だってまだ家に」

 震える声で眞莉亜さんが言うと、義明くんは渋い顔で首を振った。

「そんなもん、必要ねぇんだろ。あのババァ金だけは持ってそうだったしな。……最初っから、こうするつもりだったんじゃねぇのか。『荷物をまとめろ』なんて言って油断させておいて、こっそり俺達の見てないところで、あいつを連れて行くつもりだったんだよ」
「そ、んな」

 眞莉亜さんは力なくその場に座り込んでしまった。義明くんの胸倉を掴んでいた手も、急に勢いを無くしてしまう。

 俺だけじゃなく、黒崎のきょうだいも、しばらくその場で動けなかった。まるで電池を抜かれたおもちゃみたいに、ただぼうっとしていた。
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