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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第28章 それでも前に進め。


 インターハイ予選二日目、学校で別れてから、黒崎が俺の前に姿を現すことはなかった。

 会場についてからも、試合が始まる前も、何度となく周囲を見渡して黒崎の姿を探してしまった。
そんな俺に、スガは「試合に勝って美咲ちゃんに報告すんべ!」と笑って励ましてくれた。

 ――今はただ、目の前の試合に勝つだけだ。

 そう自分を奮い立たせて、三回戦に挑んだ。
苦しい場面では、黒崎の声が聞こえるような気がした。けれどいくら探してもその姿は見当たらなくて、あぁ幻聴だったのか、と何度も落胆した。

 試合は、1セットは取ったものの、結果は2対1で青城に負けてしまった。
絶対に来ると言った黒崎の約束も、負けないと言った俺の約束も、どちらも果たされないまま帰路につくことになった。

 烏養さんのおごりで昼飯をご馳走になって、疲れた体を引きずりながら皆に別れを告げ、一人黒崎の家へと向かう。

 呼び鈴を鳴らすと、インターホンを取った音がした。けれど相手は無言だ。家を間違えたかと思ったけれど、表札には確かに黒崎と書かれている。

「……こんにちは。黒崎と同じバレー部の東峰旭と言います」
「……東峰、旭君? ちょっと待ってて!」

 インターホンから聞こえてきたのは、若い女性の声だった。黒崎のお母さんだろうか。勢いよく開いた玄関から顔を出したのは、母親にしてはずいぶんと若い女性だった。

 毛先にかけて明るくなっていくシルバーグレーの巻き髪がよく似合う、目鼻立ちのハッキリした綺麗な人が、俺に飛び掛からんばかりの勢いで玄関から飛び出してきた。

「キミが旭君?! 初めまして、私美咲の姉の、眞莉亜です。やだ、話に聞いてたより髭がすごい!」
「は、初めまして……」

 黒崎の姉だと名乗った眞莉亜さんは、興奮した様子で俺の顎をまじまじと見つめていた。黒崎が一体どんな風にお姉さんに俺のことを話していたのか気になったけれど、今はそれよりも本人に会うのが先だ。

 もしかしたら、もうここにはいないのかもしれないけれど……一縷の望みをかけて、俺はお姉さんに黒崎の所在を尋ねた。

「……旭君と一緒じゃないの?」
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