第27章 落花流水 東峰side
「……あのなぁ」
月島に一言物申そうと思ったのだろう、スガが座席から顔を出した。
ちらりと俺に視線をよこしたスガに、俺は首を振った。スガの眉根はこれでもかというくらい寄っている。
お前は黙ってていいのかよ、なんて声が聞こえてきそうだ。
俺が何も言わず首を振り続けたからか、スガは苦い顔をしたまま元の位置に戻って行った。
「……僕は黒崎さんはもっと思慮深い人だと思ってた。あんな風に取り乱すところなんて、見たくなかった」
「……ツッキー……?」
「本当、何なんだろうね。……嫌な気分」
「……」
月島はまた深いため息をついて、それきり静かになった。
咳一つするのもためらってしまうくらい、車内は静まり返っている。
バスが向かう先で待ち受けているのは、インターハイ予選。
これから臨む試合に意識を向けなければいけないというのに、俺の頭の中は、バスを見送る涙目の黒崎の姿でいっぱいだった。