第27章 落花流水 東峰side
「女々しい男性は嫌われますよ? 何も今生の別れというわけじゃないんです。ただ住む場所が離れるというだけなのに、そんな大袈裟に騒ぎ立てなくても……そこまで孫の事を思ってくれているのは、嬉しいですけれど」
今度こそ俺は何も言えなくなってしまった。これ以上抗う力は俺には無くて、力なくうなだれた。
そのうちに、バスの出発の時間になったらしく、先生達にバスに乗る様に促された。
けれど黒崎をこの場に残しておくことができなくて、俺は唇を噛みしめたまま、じっと黒崎を見つめていた。
「……先輩達、先に行ってください。後で、私も行きますから」
「黒崎、駄目だ、今一緒に行こう」
黒崎の提案に首を振って、彼女の手を掴もうとした。けれど黒崎もまた首を振って、俺の申し出を断った。
「絶対、後から行きます。だから、先に行っててください。……約束します、絶対行きますから」
「……絶対だぞ。待ってるからな」
「はい!……私が行くまで、負けないでくださいよ?」
「…おう。分かった」
俺はどこかで、黒崎とのやり取りがこれで最後になるような気がした。『絶対』とお互い確かめるように繰り返したけれど、それを黙って聞いていたおばあさんの目は冷ややかだったから。
『そんなこと、させませんよ』とでも言いたげな目をしていたのだ。
見えなくなるまで黒崎の姿をずっと眺めていた。バスが坂を下って校門も見えなくなってしまって、俺はようやく前に向き直る。
バスの中は、昨日と違ってしんと静まり返っていた。時折ひそひそとした話し声は聞こえるものの、お通夜のような沈んだ空気が広がっている。
「……勘弁してほしいよね。試合前だってのにさ」
「ツッキー! 駄目だよ、そういうこと言っちゃ……」
「だって、さっきの騒ぎで先輩達みんな意気消沈しちゃってるデショ」
「そ、れは、そうだけど……でも……いきなりあんなことになったら誰だって……」
月島は声を潜める気はないらしく、その声は静かな車内でよく聞こえてきた。たしなめる様に山口が月島に言葉を返すも、月島は深いため息をつく。不機嫌そうな顔をしているのが目に浮かぶ。
「本当にチームのこと思ってるんだったら、身内のイザコザを皆の前で見せないで欲しいよ」
「ツッキー……!」