第27章 落花流水 東峰side
黒崎の気持ちを改めて確認して、俺は決心を固めた。
いくらおばあさんが決まった事なのだと繰り返していても、本人が納得していないのはおかしい。
大体、黒崎は部のジャージを着て登校していて、俺達が詰め寄るまで試合に行く気満々だったじゃないか。本当に決まったことだったら、バレー部のジャージを着た黒崎が今ここにいるはず、ないんだ。
「西園寺さん」
「……何かしら?」
振り返ったおばあさんの目は冷ややかだった。その目に、もういい加減にして欲しい、と言外ににじませているようだ。
「今日の試合、黒崎も連れて行きます」
「……何を、仰っているのかしら。先ほど申し上げたはずよね、今日ここをたたねばならないと」
「黒崎がいないと、駄目なんです」
「……この子がいないと、何が駄目なのですか? マネージャーの仕事なら、そちらの彼女だけでも十分なのでは?
何か、他にこの子がいないといけない理由でも?」
おばあさんの目が険しくなって、突き刺すような視線を投げつけてくる。あたりはしんと静まり返っていて、皆俺とおばあさんのやり取りを黙って見ているようだった。
「黒崎が、いるだけで力が出るんです」
一瞬の沈黙の後、俺の顔を見ながら、おばあさんはくくっと笑い出した。
「何かと思えば、そんなことですか」
俺の思いは、一笑に付されてしまった。
「そ、そんなことじゃないです! そんな軽い話では……!」
「あら、気を悪くしたらごめんなさいね。馬鹿にしたわけではないのよ――…ただ、若いわねぇ、と思ってね」
俺の言葉は、おばあさんにとって、至極馬鹿らしいもののように思えたらしい。くく、と喉元で笑われて、俺はぐっと唇を噛みしめた。
「何度も申し上げているけれど、もうこれは決まったことなのよ。私達は今日ここをたたねばならなくて、残念だけれど試合に同行は出来ないの。貴方一人の感情の為に、この子を残すわけにはいかないの。……たとえ美咲さんが残りたいと思っても、そうする訳にはいかないのだから……貴方の為にこの子を残していけないのも、分かるわよね?」
「で、でも……!」