第27章 落花流水 東峰side
「けれどね、これは私共の家庭の問題ですから。貴方がたがどうこう口を挟める事では無いのよ」
家庭の問題だと言われれば、それまでだ。
一瞬怯んでしまったけれど、それでも俺はなおも食い下がった。ここで諦めてしまったらいけない気がして。
「彼女の気持ちは、どうなるんですか?! 彼女は、ここを離れることに納得していないのに」
「納得も何も、この子の意思は関係ないのです。もう、決まったことですからね」
おばあさんの口からはつれない答えしか返ってこなかった。何を言っても事態を打開できそうに無い。
決まったことだと。もう覆せないのだと、何度も言われて心が折れそうになった。
「そんなの、あんまりです……!やっと、黒崎が心開いてくれたのに、さよならだなんて、そんなの」
「……貴方は何か、個人的にうちの孫に抱いているものがあるようですね」
心を見透かしたような言葉に、びくっとしてしまった。答えることが出来なくて、下を向く。
「そういった感情の押し付けは、感心出来ませんね。まるで私が悪者みたいなおっしゃりようだけれど、この子の行く末を思えば、今ここを離れるのが最善だと、貴方も思うはずです。……この子の家庭は、子が育つのに相応しい環境とは言えませんから」
「…………」
黒崎の家の事情を考えれば、確かにおばあさんの言う通りなのかもしれない。
『居場所』を必死で探していた黒崎が、落ち着いて暮らせる場所があるのなら、そこへ行くのが一番なのかもしれない。
俺は、俺の我儘で、黒崎の未来を縛り付けようとしているのかな。ただ、俺のそばに居て欲しいという理由だけで、彼女を縛り付けようと。
「嫌です! 私は行きません!」
黒崎が声を荒げて、俺はハッと顔をあげた。
今ハッキリと、黒崎は『行きたくない』と言った。俺の我儘だけじゃないんだって、確かめたくて、おばあさんが烏養コーチの方へ離れた隙に、黒崎に詰め寄る。
「黒崎、いいのか?! このままじゃ、お前……」
「……い、嫌です、私、ここにいたい……みんなを、応援したいです……」
「だよな?! ここにいたいんだよな?今日だって、一緒に行きたいよな?!」
こくこくと黒崎は何度も頷いた。それに俺は、分かった、と小さく呟く。