第27章 落花流水 東峰side
「そんな、私、そんなこと、了承してないです……!」
「昨日説明したでしょう。これはもう、決まったことだと」
黒崎の声は震えていた。彼女がここを離れたくないと思っている事は、今にも泣きだしそうな顔を見れば一目瞭然だった。
「わ、私、みんなと春高に行くって決めてるんです! みんなの力になりたくて、部活続けてるんです! そんな、急に、学校を変わるなんて出来ません!」
ようやく見つけたと言っていた黒崎の居場所を必死で守る様に、彼女はおばあさんに向かって叫んでいた。
「……貴方はただのマネージャーでしょう?」
それまで柔和な笑みを浮かべていたおばあさんの表情が一変した。目にすぅっと冷たいものが浮かんで、黒崎を突き刺すように見ている。背筋がぞわっとした。幽霊とか、怪談とか、そんなものよりよっぽど怖かった。
「もう一人、マネージャーの方はいらっしゃるようだし……貴方一人いなくとも、部に影響はないでしょう。選手ならいざ知らず、要は雑用係なのだから……」
おばあさんの言葉に黒崎は下を向いてしまった。黒崎は、自分には力が無いと思っているみたいだったから、おばあさんの言葉に言い返せなかったんだろう。そんなこと、無いのに。
俺はいつだって、黒崎に力をもらっているんだよ。いてくれるだけで、心強いんだ。黒崎がいなかったら、今の俺はいないかもしれない。……だから、今は、俺が黒崎の力になりたい。
下を向いてしまった黒崎を励ますように、息を吸って意識して大きな声を出す。
「黒崎の居場所は、ここなんです!! 彼女はただのマネージャーじゃない! 俺達の大事な仲間です!!」
自分でも驚くくらいの大声だった。こんな風に啖呵を切ったのなんか、初めてだった。スガや大地達も驚いた顔をしている。
でも俺の一世一代の叫びも、おばあさんには通じないようだった。にっこりと微笑まれただけで、俺の言葉なんか気にも留めていないようだ。
「そこまでこの子のことを想ってくださっているのは嬉しいわ、ありがとう」
おばあさんの言葉は穏やかで優しかったけれど、目の奥に冷たさを感じて、思わず後ずさってしまう。