第27章 落花流水 東峰side
「その調子で、試合の方も頑張ってくれよ、エース?」
「期待してるぞー!」
スガと大地が俺の背中を叩く。二人ともわざと派手に叩いてきて、思わず声をあげてしまった。
「痛っ!! ちょっとは加減しろよぉ、お前ら」
痛みに涙目になっている俺をよそに、スガと大地は、にししと笑っていた。
校門が見えてきて、昨日と同じマイクロバスが停まっているのが目に入る。清水が一番乗りだったようで、挨拶する。バスの近くに三人で荷物を下ろして、他の奴らが集まるのを待つことにした。
するとしばらくして、見慣れない年配の女性が校門をくぐって真っすぐ俺達の方へ歩いてきた。誰かの親戚なのか、知り合いなのかお互い探り合うが、誰も心当たりがないようだった。
落ち着いた紺地に、白い波線と薄桃色の小花が描かれた着物の女性は、上品そうな笑顔を浮かべて俺達に一礼する。
「おはようございます」
「…おはよう、ございます」
俺達が挨拶を返すと、女性はにっこりと笑みを浮かべた。
「初めまして。私、西園寺美代子と申します。黒崎美咲の祖母です。いつも孫がお世話になっております」
「美咲ちゃんのおばあさん……?」
そう言われてみれば、どことなく目元が似ているような気がする。柔和そうな少し垂れ気味の目なんか、黒崎と同じだ。
「今日は、皆様に孫が転校する旨お伝えにあがりましたの。短い間でしたけれど、皆様には大変お世話になりました。孫に代わってお礼申し上げます」
淀みなく語る黒崎のおばあさんの言葉は、俺の頭を一度素通りしてしまった。聞き間違いか何かだと思った。目の前のおばあさんはにこにこしたままだ。
「えっ……?」
スガも、大地も、清水も。そして俺も。みんな事情をよく飲み込めないでいて、ぽかんとおばあさんを見つめていた。おばあさんの眉が少し下がって、そんな顔をなさるのも無理ないお話ですね、と言葉を続ける。
「急なお話で、皆様にご迷惑をおかけすることになって、私も孫も、大変心苦しく思っておりますの。事情があって今日すぐにここをたたねばならなくて」
何かの間違いだと、そうとしか思えなかった。
だって、昨日、黒崎は。ようやく自分の『居場所』が見つかったって、喜んでいたじゃないか。