第27章 落花流水 東峰side
「黒崎さんがくれたの?」
「えっ」
お袋はにやにやして俺とお守りを交互に見ている。恥ずかしくなって小さな声で「うん」と答えた。
「いやぁね、ニヤニヤしちゃって。はい、このリボン使いなさい。チェーンの代わりになるでしょ」
「ありがとう」
切れてしまったボールチェーンの代わりに、お袋から受け取った黒いリボンをお守りに通して、スポーツバッグにギュッと結び付けた。
「試合、頑張ってね」
「うん。行ってきます!」
バッグで揺れるお守りと同じくらい、俺の胸も弾んでいた。
今日の一試合目は青城との試合だ。俺は青城との練習試合に参加していないけれど、俺と西谷抜きで一度勝ったらしい。
でもその時は及川がほとんど出ていなかったから勝てたのではないかという話だった。
確かに、簡単に勝てる相手ではないだろう。だけど、昨日の試合で俺は自信を取り戻していた。
それに、黒崎のあの力強い声援があれば。今日の試合も乗り越えていけそうな気がする。
「あさひー、朝から気持ち悪い顔すんなよー」
いきなり飛んできた声に目をやると、スガが手をあげてこちらに近づいてきていた。
「おはよ。旭、何一人でニヤニヤしてたの。妄想? どんなやらしいこと考えてたんだよ」
「えぇ?! 俺そんなニヤニヤしてた?」
「してたな。遠くからでも分かるくらい、にやけてたぞ」
「大地?!」
後ろから小突かれてビクッとしてしまう。大地が呆れた顔で俺を見ている。
「どーせ、美咲ちゃんのことでも考えてたんだろー」
「……その顔は図星だな」
スガと大地に両脇から小突かれて、俺の体はぎゅっと縮こまった。図星だけど、まさか顔に出てるなんて思ってなかったし、あまつさえこの二人に見られてるなんて思ってなかった。
「そういや昨日、なーんかいい雰囲気だったもんなぁ」
「頭撫でたりなんかしてなぁ。ひげちょこもやる時はやるんだな」
「えっ、あっ?! み、見てたの?!?」
「のぞき見するつもりは無かったんだべ? 誰かさんがなかなか来ないから、どうしたんかなーって大地と二人で呼びに行ったらさぁ……」
スガがニヤニヤしながら口元に手をあてて俺を見た。
そういや二階席に行った時、やけに二人が俺を見てくるなぁとは思ったけど。まさか見られていたとは。