• テキストサイズ

【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第26章 落花流水


「本当に、突然で申し訳ありません。手続き等は後日改めてさせていただこうと思っております。諸事情で今日、ここをたたねばなりませんので、本日の試合には孫は同行出来ません」
「そうですか……それは残念です。黒崎さんには皆、力をもらっていましたから」
「いえ、先生、私は……!」
「もう、貴方はいつまで我儘を押し通すつもりなの? 皆様にご迷惑がかかるだけよ。幼い子供じゃないのだから、いつまでも嫌だ嫌だと言うのはおよしなさい」

 祖母の目が光った。その気迫に気圧されそうになって、思わず言葉を飲み込んでしまった。
このままでは祖母の言う通りになってしまうのに。現状はいつまでたっても変わらないまま、祖母の思うまま進んでいってしまっていた。

「先生、そろそろ出発しねぇと間に合わねぇぞ?」
「烏養君……そう、ですね」

 ひょっこりと現れた烏養コーチにも、祖母はにこやかに挨拶をし始める。
祖母が私から離れた隙に、旭先輩が詰め寄って来た。

「黒崎、いいのか?! このままじゃ、お前……」
「……い、嫌です、私、ここにいたい……みんなを、応援したいです……」
「だよな?! ここにいたいんだよな?今日だって、一緒に行きたいよな?!」

 旭先輩の言葉にこくこくと何度も頷く。それに旭先輩も力強く頷いて、分かった、と小さく呟いた。

「西園寺さん」
「……何かしら?」

 旭先輩が祖母と対峙して、すうっと息を吸った。

「今日の試合、黒崎も連れて行きます」
「……何を、仰っているのかしら。先ほど申し上げたはずよね、今日ここをたたねばならないと」
「黒崎がいないと、駄目なんです」
「……この子がいないと、何が駄目なのですか? マネージャーの仕事なら、そちらの彼女だけでも十分なのでは?
何か、他にこの子がいないといけない理由でも?」

 祖母の目が険しくなって、旭先輩に突き刺すような視線を投げつけた。異様な空気に、周囲の人は皆押し黙って二人のやり取りを見ている。

「黒崎が、いるだけで力が出るんです」

 一瞬の沈黙の後、真面目な顔の旭先輩を見ながら、祖母はくくっと笑い出した。

「何かと思えば、そんなことですか」
「そ、そんなことじゃないです! そんな軽い話では……!」
「あら、気を悪くしたらごめんなさいね。馬鹿にしたわけではないのよ」
/ 460ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp