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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第26章 落花流水


 祖母はあくまでにこやかに、私の手を取ろうとした。私はそれを跳ねのけて、精一杯祖母を睨み付けた。

「嫌です! 私は行きません!」

 祖母はあらあらと言いながら困った顔をした。けれどその顔が演技であると私には分かった。周囲に人の目があるから、優しい祖母を演じているに過ぎない。きっと心の中では、あの冷たい目で私を冷ややかに見つめているに違いない。

「……困りましたね。いつまで駄々をこねるつもりなの? もう高校生なのだから、あまり子供じみた行いをするものではないわよ。…分かってほしいわ、全て貴方を思ってやっている事なのだと。貴方のこれからを思えばこそ、今はつらいかもしれないけれど、ここを離れた方がいいと、私は思うの」

 耳障りのいい事を並べ立てる祖母だったけれど、祖母が昨夜、ハッキリとこう言っていたことを私は忘れてはいない。

『家督を譲る人間がいなくなってしまったから、仕方なく貴方を引き取りに来たのよ』

 祖母は確かに言った。『仕方なく』引き取りに来た、と。
祖母の本音はそれだろう。私のことを思って、なんてそんな気持ち微塵も無いのだと思う。

 家の存続の為、『仕方なく』私を連れて行きたいのだ。そんな勝手な理由で、私はここから引き離されようとしているのだ。ようやく見つけた、私の居場所から。

「何と言われようと、私の気持ちは変わりません。私はここを離れるつもりは微塵もありませんから」

 祖母との睨み合いはそう長くは続かなかった。事情を知らない武田先生がやってきて、そろそろ出発するよ、と声をかけてきたからだ。

「みんな、準備はいいかな?」
「…せ、先生……それが……」

 言い淀んだ潔子先輩に、怪訝な顔をした武田先生がこの場で明らかに浮いている着物姿の祖母を見つけて、駆け寄って来た。

「……先生でございますか?」
「は、はい。バレー部顧問の武田です。…ええと」
「武田先生。孫がお世話になっております。わたくし、この子の祖母の西園寺美代子と申します。この度、孫が転校することになりまして、ご挨拶に伺ったところです。突然のことで皆様にはご迷惑おかけいたします」
「て、転校、ですか。それはまた突然のお話ですね……」

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