第26章 落花流水
「はざまーす!!」
重い空気を知ってか知らずか、明るい声が響き渡る。元気よく
駆けてくる日向達の姿に、私は唇を噛みしめた。
「……? なんか、あったんすか?」
挨拶も返さず押し黙ったままの私達に、田中先輩がおそるおそる問いかけた。いつもならこんな場面もうまく乗り切ってくれそうな菅原先輩までもが難しい顔をして、何も言えずにいた。
それをいいことに、祖母がよそ行きの笑顔で田中先輩の疑問に答え始める。
「おはようございます。わたくし、美咲の祖母でございます。今日はうちの孫が転校する旨、お伝えに上がったの。今まで、お世話になりました」
「は、はぁ、そうなんすか……って、えぇっ?!」
「ハァ?! 美咲ちゃんどういう事?!何、なんで急に?!?」
田中先輩と西谷先輩が大声をあげて騒ぎだして、後ろからゆっくりこちらに向かって来ていた他の一、二年の部員も何事かと駆け寄ってきた。
「どうしたんすか、田中先輩」
「お、おう、なんかな、美咲ちゃんが転校するんだとよ」
「そうなんすか……それは、急な話っすね」
「だよなぁ?影山。美咲ちゃん水臭ぇよ、今まで黙ってたなんて」
田中先輩の言葉に、私は大きく首を振る。泣きそうな私の顔を見て、それまで軽く笑っていた田中先輩の顔から笑みが消えた。
「違うんです! 私も昨日いきなり聞かされて! 私はここを離れる気なんてありません!!」
「…えっ、そう、なの……?」
「どういう事……?」
田中先輩達は困惑していた。詳しく話をしたいけれど、私もいまだ頭の中がごちゃごちゃで、上手く言葉が出てこなかった。
そんな私を尻目に、また祖母が話を始めてしまう。
「ごめんなさいね。この子、まだ混乱してるの。急に決まったことだから、心の整理が追い付いていないみたいで。こんなに大騒ぎするつもりは無かったのだけれど……うるさくしてごめんなさいね」
「は、はぁ……」
祖母の言葉に、田中先輩達はどちらの言葉を信用したらいいのか迷っているようだった。表面上、人当たりのよさそうな品の良い人を演じている祖母に惑わされるのも無理はないと思う。
見た目だけだったら、まさかこの祖母が、無理矢理私を連れて行こうとしているようには見えないだろう。
「さあ、帰りましょう美咲さん。早く荷物をまとめて頂戴」