第26章 落花流水
「ごめんなさいね。この子も突然のことで気持ちの整理がまだついていないのよ。でも転校するのは事実なの。申し訳ないけれど、バレー部も退部させていただくことになるわ」
「でもっ、黒崎はっ……」
「途中で投げ出す形になって心苦しいけれど、ごめんなさいね」
祖母は、旭先輩の言葉を遮った。昨日と同じで、この人の前でいくら叫んでみたって、聞く耳なんかひとつも持ちそうなかった。
「そんな、私、そんなこと、了承してないです……!」
「昨日説明したでしょう。これはもう、決まったことだと」
むなしい抵抗だと分かっていながら、嫌だと言い続けるしか私には思いつかなかった。
「わ、私、みんなと春高に行くって決めてるんです! みんなの力になりたくて、部活続けてるんです! そんな、急に、学校を変わるなんて出来ません!」
私の根底にある思いは、ずっと変わらない。バレー部のみんなと一緒に、春高を目指す。オレンジコートで戦うみんなの姿を、旭先輩の勇姿を見る為に、毎日頑張っているんだ。
ようやく見つけた、私の居場所。それを必死で守る様に、私は祖母に向かって叫んでいた。
「……貴方はただのマネージャーでしょう?」
祖母の冷たい視線が、突き刺さる様に私に向けられた。背中に冷たい汗が流れるのが分かる。
「もう一人、マネージャーの方はいらっしゃるようだし……貴方一人いなくとも、部に影響はないでしょう。選手ならいざ知らず、要は雑用係なのだから……」
祖母の冷ややかな目に、言い返したくても言葉が出てこなかった。私に今出来ることといえば、祖母の言う様に部活における雑用全般と、応援くらいで。それは私じゃなくても、他の人でも務まることで。
私じゃなければいけない、なんて理由はどこにも無かった。
祖母の言葉に情けないけれど私は下を向いてしまった。そんな私を鼓舞するように、旭先輩の大きな声があたりに響いた。
「黒崎の居場所は、ここなんです!! 彼女はただのマネージャーじゃない! 俺達の大事な仲間です!!」
私の、居場所。大事な仲間。
旭先輩の言葉を、この時の私がどれほど嬉しいと思ったか。どんなに言葉を尽くしても、この気持ちを誰かに伝えるのは難しかっただろう。
そのくらい、旭先輩の言葉は私の胸を温かくさせたのだ。