第26章 落花流水
突然祖母が来訪した翌日。
リビングの惨状を目の当たりにして、昨日の出来事は夢でなかったと改めて思わされた。
食器だけでなく、冷蔵庫の中身も床に散らばっていて、これでは今日の朝食を取るのは無理そうだ。兄の暴れっぷりにため息をつきながら、そうでもしなければ引かなかったあの人達の顔が浮かんで寒気がした。
空腹を水で誤魔化して、支度をして学校へ向かうことにした。
「ごめんお姉ちゃん、帰ってきたら片付けるから」
「あんたは気にしなくていいのよ。義明に全部やらせるから。それより早く学校行きな? 頑張って応援するんでしょ」
「……うん。ありがとう、行ってきます!」
祖母のこと、これからのこと。気にするなって言う方が無理だったけれど、無理矢理頭の隅に追いやる。
今日も精一杯、みんなに声援を送るんだ。弾む胸に、私の足取りはどんどん早くなっていった。
息をきらして校門をくぐれば、すでに黒いジャージが数人集まっている。
「おはようございま――」
言いかけた私の目に飛び込んできたのは、祖母の姿だった。口があいたまま、そのまま動かなくなった。どうしてここに。一体何をしているの。
「あっ! 美咲ちゃん!!」
「黒崎、どういう事?!」
菅原先輩達が青い顔をして駆け寄ってきて、問い詰めてくる。先輩達の様子に、ただ事ではないと感じるも、話が見えない。
「えっ、な、何がですか……?!」
「今日で宮城を離れるって、どういう事?!」
先輩達の言葉に、頭が真っ白になった。
確かに昨日、祖母は『明日には家を出る』と、そんなことを言っていた。
けれど、まさか学校にまで押しかけるとは思っていなかった。私も、兄も姉も。この祖母を甘く見すぎていたのかもしれない。
何も言えないでいる私に、菅原先輩が畳みかけるように言葉を続ける。
「美咲ちゃんのおばあさんって人が、今日で転校するからお別れです、って。今までお世話になりました、って言ってんだけど!?」
「わ、たしは、離れるつもり、ないです……!」
「だよな、黒崎?! いきなりそんなワケないよな?!」
旭先輩がぎゅっと肩を握りしめて、懇願するようにそう言ってくる。私はこくこくと頷いたけれど、後ろにいた祖母がスッと旭先輩と私の間に入って来て、旭先輩によそ行きの笑顔を向ける。