第25章 青天の霹靂
今までだって、決して健全な家族の形を成してはいなかった我が家。それが今日、一気に崩れ落ちてしまった。
「あのババア、いきなりお前を東京に連れて行くとか意味分かんねぇこと言い出して……お袋もお袋で黙って受け入れやがって、何考えてんだか」
「……あの人、美咲のおばあちゃんなんだって」
「おばあ、ちゃん……」
今まで顔も見たことのない祖母。存在だって知らなかった。兄や姉も同じだろう。
「あんなババア、ばあちゃんでも何でもねぇよ! 今まで連絡一つよこさなかったくせに何が養子だ、ったく」
「……でも、お母さんもう私のこと……」
拒絶するように顔を背けた母の姿が目に浮かぶ。兄や姉は私を引き留めてくれているけれど、母は私をこの家から追い出したがっているようだった。
私はまだ高校生で、誰かの庇護無しには生きていけない。母に出ていけと言われたら、私の居場所は家にない。祖母だと名乗る女性の今日の様子から、無理やりにでも私は連れていかれるのではないだろうか。
「……俺と姉貴は、お前の味方だ。心配すんな。俺達が絶対手出しさせねぇ」
「お兄ちゃん……」
「私、どこか部屋借りれないか、探してみる。私と一緒に住めばいいよ、美咲」
「ありがとう、お姉ちゃん」
美容師として働いている姉は、一人立ちすることも出来たのだけれど、母のこともあっていまだ家に留まってくれていた。
姉に負担をかけてしまうのは申し訳ないと思ったけど、烏野を離れたくない私は、姉の申し出が素直に嬉しかった。
その夜は、幼い頃と同じように三人で川の字になって寝ることにした。私を真ん中にして、兄と姉が横に。ぎゅっと握りしめた手のぬくもりに、少しだけほっとする。
「手、握って三人で寝るなんていつぶりかなぁ」
「おい、言葉に出すな!恥ずかしいだろうが!」
「あはは、義明は相変わらずツンデレだねぇ」
「うるせぇ!」
兄も、姉も、私との血の繋がりは半分しかないけれど。そんなこと関係ないと思えるくらい、私は二人に愛されているのだと、嬉しくない祖母の登場で皮肉にも認識させられた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう。二人とも、大好きだよ」
照れ臭かったけれど、言葉にしないといけない気がした。
握った手がどちらもギュッと力がこもる。兄も姉も無言で私の言葉に返事をしてくれたようだった。