第25章 青天の霹靂
「そういう事だから、早いうちに荷物をまとめて置いてくださるかしら? 明日にでも迎えをよこします」
「い、嫌です!」
「貴方も大概強情なのね。何度も言わせないでもらえるかしら。これはもう、決まったことなの」
「そんな、そんなのあんまりです! いきなり来て養子になれだなんて」
「……混乱するのも無理はないわね。でも、いつまでもここにいても貴方にメリットなんて一つもないわ。うちに来ればもっといい学校に通わせてあげられるし、欲しい物も手に入るわ。何不自由無く暮らせるのよ」
「……っ、学校を変わるなんて絶対に嫌です!!!」
贅沢な暮らしとか、そんなのどうだっていい。それよりも、烏野に通えなくなることが嫌だ。
折角見つけた、私の居場所を奪われたくなかった。衛輔くんの家から離れることになった時と同じように、心が軋む音がした。
旭先輩の笑顔が頭に浮かぶ。
『また明日な黒崎』
明日も、それから先の試合だって、旭先輩を、みんなを応援していくんだ。みんなが目指す春高のコートに、私も一緒に行くんだから。
バレー部員みんなの顔が次々と浮かぶ。私を受け入れてくれたみんなと離れたくない。
「将来のことを考えれば、早いうちに学校を変わった方がいいと思うの。幸いまだ一年生だから、転校しても学業の遅れは取り戻せるでしょう」
私の話なんて、これっぽちも耳を傾ける気はないらしい。養子になることを前提で話を進める女性と母に、絶望的な思いしか抱けない。
「勝手にこいつの将来を決めんな!!」
兄が私の代わりに、女性に噛みつく。ぐっとくぐもった声がして視線をやると、スーツの男性が兄の口元を抑え込んでいた。男性の目も冷ややかなもので、暴れる兄を押さえつけていても表情一つ変わらなかった。
「……そ、そうです。この子の気持ちも考えてください!」
兄に続いて、姉も援護の言葉を口にしてくれた。けれど、女性はそれを一笑に付す。冷ややかな視線のまま、彼女はまた口を開く。
「物分かりのいい人間はここにいないのかしらね。いい? 何度も言いますけどね、これはもう決まったことなの。美咲さん、貴方はうちに養子に来るのよ。もうこの家に戻ることは無いわ。さ、今すぐ荷物をまとめて頂戴。明日には家を出るのよ」