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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第25章 青天の霹靂


「お姉ちゃん、どういうこと……?」
「……それが……」

 姉は言い淀んでしまって、顔を曇らせる。沈黙が支配する場で、着物の女性が口を開いた。

「私から説明するわ」
「美咲っ!! そいつの話なんか聞かなくていい!!」

 兄が叫ぶと、スーツの男性がぐっと兄の喉元を締め上げた。
ぐっと息を詰まらせる音が聞こえて、私は思わず「やめて!」と叫んでいた。
男性はちらりとこちらを見て、頭を下げて兄を締め上げていた力を緩めた。

 兄はゴホゴホと咳き込んで、床に崩れ落ちる。喧嘩に強い兄が、そんな風に誰かに追い詰められるなんて初めてで。私の頭はますます混乱を極めていた。

「全く、本当に懲りないのね貴方は」

 吐き捨てるように着物の女性は言って、冷たい視線を兄に投げかけた。兄は舌打ちをして女性を睨んでいる。それをたしなめる様に、またスーツの男性が兄に手をかけようと動く。

 今度は着物の女性が言葉で先にそれを制して、スーツの男性は静かに頷いて動きを止めた。
どうも男性は着物の女性の執事かSPか、そんなような存在のようだ。
そんな人間を傍に置く人物が、我が家に一体何の用なのか。

 疑問符だらけの私に、女性は母の横に腰掛けるよう促してきた。
言われるがまま、母の隣に腰を下ろす。

 冷たい女性の目が、じっと私を品定めでもするように見つめてきて、背中に冷たい汗が流れる。
値踏みするかのような遠慮のない視線に、居心地の悪さを感じる。
嫌な予感しかしない私に、女性はようやくこの場に自分がいる理由を話し始めたのだった。

「単刀直入に言うわね。貴方、うちに養子に来なさい」
「よ、養子……?! いきなり何の話ですか?!」

 全く理解が追い付かない。一体全体何がどうなって養子なんて話が持ち上がっているのだろう。
混乱する私に、女性は顔色一つ変えずに話を続ける。

「貴方のお父さん、亡くなってしまったの。家督を譲る人間がいなくなってしまったから、仕方なく貴方を引き取りに来たのよ」
「えっ……」

 先に伝えるべきは、父の死ではないのか。そんな思いが浮かんだけれど、目の前の女性の冷ややかな目を見れば、彼女がそんな情に厚そうな人間には思えなかった。

 かく言う私も、突然とはいえ告げられた父の死に、これといった感慨を抱いたわけではなかった。
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