第25章 青天の霹靂
インターハイ予選一日目は無事勝ち抜くことができた。
学校に戻って、ミーティングを済ませると明日の試合に備えて早めの解散となった。
いつものように旭先輩に家まで送ってもらっていると、家の前に見慣れない黒塗りの車が止まっているのが目に入った。車に詳しくない私でも、見たことのあるエンブレムを冠した高級車だ。
「うぉっ?! ベンツ?!」
「……なんで家の前にこんな車が……」
驚く旭先輩と顔を見合わせる。こんな高級車に乗るような知り合いが、うちの家族にいただろうか。首をひねっても思い当たる節が無い。
「凄いなぁ、ピカピカだ」
曇りひとつない輝く車体に旭先輩は目を輝かせていた。車とか好きなのかな、旭先輩。おもちゃを前にした子供みたいな先輩の後ろ姿に、頬が緩む。
「あっ、ごめん! つい。…じゃ、じゃあまた明日な、黒崎」
「はい、また明日」
去って行く旭先輩の背中が見えなくなるまで見送って、玄関の扉を開ける。
入り口に見慣れない履物が揃えてあって、家の前の車の持ち主だろうと推察された。
華やかな刺繍が入った鼻緒が目を引く、品の良い草履と横に並んだ黒塗りの革靴。どちらも車と同じく高級感が漂っている。
ますますもって、こんな物を所有しているような人物が家に何の用で来訪しているのだろうか、と首をひねってしまう。考えていても答えは出ないので、ひとまず家の中に向かって帰宅を告げる。
「ただいま」
バタバタと足音がして、姉が顔をのぞかせる。血相を変えて私に駆け寄る姉に、どうしたのか理由を尋ねる。
「っ、来て! とにかく来て!」
「えっ、何? どうしたの?」
訳も分からず、姉にリビングへと引っ張られていく。
リビングに足を踏み入れると、シンと静まり返っている。何故か兄がスーツ姿の男性に壁際に追いやられていて、母はリビングの真ん中に置かれたテーブルでじっとしていて動かない。
母と対面するように座っている女性が目に入る。白い髪を上品に結って、若草色の着物を身にまとった年配の女性だ。目の前に置かれた湯呑みに目を落としていたその女性は、ゆっくりと私に視線を向ける。
「お帰りなさい、美咲さん」
名も知らない、初めて会うその女性に名を呼ばれて、私は目をぱちくりとさせるしかなかった。
状況が全く飲み込めないでいる私は、姉の顔を見る。