• テキストサイズ

【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第24章 私の居場所


 中学からずっと続けてきたバレーをやめてしまうくらい、心に傷を負ってしまっただろう伊達工との試合で、力強いアタックを決めた旭先輩の姿が、とても眩しく見える。

 先輩は、今どんな気持ちなんだろう。
四月、ルールブック片手に旭先輩と話をした時の、辛そうな顔。
もうそんな顔をしないで、済むのかな。

 止まらない涙をぬぐいながら、旭先輩の後ろ姿に視線をそそぐ。
少しでも、私は力になれたでしょうか。そんなことを思いながら。

「っ!」

 視線を送りすぎたのか、旭先輩の顔がこちらを向いた。旭先輩と目が合って、私が泣いているのが目に入ったのか旭先輩の目が丸くなったのが分かった。

 ごしごしと目をこすって、涙の痕跡を消す。精一杯の笑顔を浮かべて拍手をおくると、旭先輩が力強く笑って拳をあげてくれた。

 言葉は無くても、お互いの考えていることが分かる。旭先輩と通じ合えている気がして、嬉しくなった。

「…美咲ちゃんっ、東峰こっち向いたよ!」

 私以上に興奮した様子で、道宮先輩が肩をばしばしと叩いてくる。頬を紅潮させて「良かったね!」と笑顔でまたさらに肩を叩く道宮先輩に、私も満面の笑みを返した。

「えっ、えっ、もしかして、もう付き合ってたりするの?!」
「っ?! いえ、付き合っては……」
「あっそうなんだ! ごめん、私てっきり」

 道宮先輩は慌てて謝罪を繰り返していた。何かまずいことを言ってしまったような顔で何度も謝る道宮先輩に、気にしていないことを伝える。
後ろから突き刺すような兄の視線を感じて、道宮先輩よりもそちらの方が気になって仕方なかった。

 試合は流れ、また旭先輩のバックアタックが決まって、1セット目は烏野が先取した。点差は6点差。2セット目もこの勢いのまま烏野が取れればいいのだけれど――。

 2セット目、点の取り合いが続き、烏野のマッチポイント。対する伊達工は22点。デュースに持ち込まれる可能性も十分にある。

 ラスト1点を目の前にして、日向は西谷先輩と交代で下がっている。あの超人的な速攻は使えない。

「あと1点、決めてほしいね……!」

 道宮先輩の言葉に、黙って頷く。あと1点。私も、二階席で応援する人たちも皆、固唾をのんで試合の行方を見守っていた。
/ 460ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp