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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第24章 私の居場所


 観客でさえ、釘付けになってしまう日向の動き。コートで相対する伊達工のメンバーは、よりいっそう意識せざるを得ないはずだ。
 
 私のその理解は正しかったようで、好機はふいに訪れたのだった。
 
 烏野の前衛にいた澤村先輩、日向、田中先輩が一斉に助走に入って、私もそのうちの誰かにトスが上がるのだろうと思って試合を見ていた。

「持って来ぉぉぉい!!!」

 日向が叫んで、意識は日向に釘付けになりそうだった。多分、会場のほとんどの人が、声を張り上げて床を飛び立つ日向に注目していたと思う。

 二階席からは、コート全体の様子がよく見える。今は目の前のコートに烏野がいるから、後ろから皆を応援している形だった。

 だから、日向の後ろにいた旭先輩の動きも、よく見えていた。
日向が飛ぶのに少し遅れて、旭先輩も勢いよく床を飛び立つ。

 背中に羽が生えたみたいに、浮き上がった旭先輩の体がぐっと大きくそっていくのがスローモーションのように見えた。

 それまで、大きく立ちはだかっていた鉄壁は、ゆっくりと沈んでいく。
伊達工は日向の囮につられてブロックに飛んでいた為、旭先輩の視界はすっかりひらけている。旭先輩の行く手を遮るものは何もなかった。

「いけー!旭先輩!!」

 思わずそんな言葉が口から飛び出していた。旭先輩なら、この攻撃を決めてくれると信じて疑っていなかった。けれど、私も先輩の後押しをしたくて、叫んでいた。

 日向達みたいに、プレーで先輩を支えることは出来ないけど、この声が少しでも旭先輩の背中を押せたら。

 振り下ろされた腕から強烈な一撃が、伊達工のコートに刺さる。レシーブにも動けないほどのスピードで、旭先輩はバックアタックを決めたのだった。

「やったぁぁぁ!!」
「すごいすごい!!今の東峰のバックアタック凄かったね!!」

 喜びのあまり、思わず道宮先輩に抱き着いてしまう。道宮先輩も、他の女子バレー部の人達も我がことの様に喜んでいて、みんなでハイタッチしあった。

「良かったね、美咲ちゃん。東峰復活したね」
「はい! 本当に、良かった……」

 急に道宮先輩の顔が慌てだして、なんでだろう?と思った時には私の目から涙がぽろぽろと零れだしていた。
道宮先輩の言うように、旭先輩が壁を打ち破って復活したのだと思うと、何故か涙が止まらなかった。
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