第24章 私の居場所
「あ、すみません。後ろの強面はうちの兄です」
「えっ?! あ、そ、そうなんだ」
「無視していただいて構わないので」
「ええっ、いや、そういうわけには……」
言って道宮先輩は兄にぺこりと頭を下げる。ちらりと兄を見れば、兄も仏頂面ではあるが同じように頭を下げた。女性に対しては大人しい兄だったが、あの目つきの悪さだけは本当になんとかしてほしい。
威嚇する気はないのだろうが、道宮先輩達をすっかり怯えさせてしまっている。
「遅ぇーよ!試合終わってたらどうすんだよ!」
「だって珍しくお客が来てて」
どたどたとまた二階席に駆け込む足音が響いて、烏野OBの嶋田さんと滝ノ上さんが現れた。
「おっ、美咲ちゃんこんにちは。どうよ、試合は」
「こんにちは!嶋田さん。今1セット目で、烏野リードしてます。けど一進一退って感じで点差はあまり離せていません」
「そうかぁ。まぁ伊達工は強豪だからな。そう簡単に勝てる相手じゃないだろうけど……。と、ところで後ろの金髪の人は、知り合い……?なんかすごいガンつけられてるんだけど……」
「えっ、あっ、すみません! うちの兄です」
「お兄ちゃん?!」
嶋田さんの言葉に、兄の三白眼がギロリと光る。私はそれをアイコンタクトでたしなめて、嶋田さん達に謝罪した。
「来いやぁあああああ!!」
変な空気になりつつあった二階席だったけれど、日向の大声に皆の目がコートに集中した。
「え……何、今の」
「速攻?」
「あれって一年生だよね? なんかめっちゃ飛んでなかった?」
女子バレー部の人達は、普段練習する体育館が違うから、日向達の動きを見るのは初めてだったのだろう。
私が初めて二人の速攻を見た時と同じように驚いていて、無理もないと思った。
女子バレー部員の反応に嶋田さんが嬉しそうに頷いている気持ちも分かる。自分がやったわけじゃないけれど、彼らの普段の練習に打ち込む姿を見ていれば、嶋田さんみたいに誇らしい気持ちになるのも分かる。
日向の活躍に皆の目が釘付けになった。会場の誰もが、日向と影山くんの速攻に驚き、目をしばたたかせている。
ふと、試合前の烏養コーチの言葉が頭に浮かんだ。
『日向が光れば光るほど、相手のブロックは目が眩むのさ』