第23章 心はいつも、そばにある。
旭先輩が私を励まそうとしてくれたのが分かった。少し暗い話をしてしまったかなと思ったけれど、旭先輩はもう私の家の事情もある程度知ってしまっているから今更かな、とも思う。
「ほら、義明くんなんか絶対喜んでるよ! ……あ、そう言えば試合見に来てたね、義明くん」
「来てましたね。来るなんて一言も言ってなかったから、会場で会ってびっくりしましたよ私」
「そうなんだ」
「まぁ昨日の感じから、なんとなく見に来そうな感じはしてましたけど」
昨日、玄関先で怒鳴りつつも旭先輩にエールを送っていた兄の姿が頭に浮かぶ。今日の試合を見て、兄も旭先輩をより認めてくれたのではないかと思う。二回戦を楽しみにしていたみたいだったし。
「義明くん、なんだかんだいいお兄さんだよね」
旭先輩はそう言って微笑んでいたけれど、先ほどの及川さん達とのいざこざを思い出して、素直に頷けなかった。
「そうですかねぇ……さっきも青城の及川さん達に絡んで面倒だったんですよ」
「あ、そういやなんかすごい顔してたのは見たかも。喧嘩っ早いとこあるもんな、義明くん」
「そうなんですよ。及川さんがちょっと名前聞いてきただけなのに、突っかかっていっちゃって」
「名前……って、黒崎が名前聞かれたってこと?及川に?」
「? はい、そうです」
旭先輩の質問に答えると、先輩はなんとも言えない表情になった。その表情の意味を見いだせないままでいると、旭先輩が口を開いた。
「……黒崎って、モテるんだな」
「へっ?」
予想だにしていなかった一言に、変な声が出てしまった。いまだかつて自分がモテるなどと自覚したことはない。潔子先輩ならいざ知らず、私はモテる人間ではないと自分では思う。
「いやいやモテませんよ? ただ名前聞かれただけですし」
「でもさ、伊達工のやつにも名前聞かれてただろ」
「あー……確かに、聞かれましたけど。単なる好奇心じゃないですかね? 二口さん軽そうな感じの人だったし。声かけるのよくあることなんじゃないんですかね?」
「好奇心、ってことは、黒崎に興味があるってことだろ?……自分では気付いてないかもしれないけど、お前も清水みたいに『可愛い』って言われてるんだぞ。他のやつらから」
「えーっ、それお世辞とか社交辞令のたぐいですよ、絶対!!」