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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第23章 心はいつも、そばにある。


 おあつらえ向きに、澤村先輩と潔子先輩の分が残っているような気がして、私は弁当箱を二人に差し出した。

「なんか催促したみたいで悪いな」
「ごめん。でも気になるから遠慮なくもらうね?」
「どうぞ。お口に合えばいいですけど……」

 菅原先輩と旭先輩の反応があまりにも大きなものだったから、澤村先輩と潔子先輩の期待が卵焼きの出来以上に膨らんでいるような気がして不安になる。
そんなに期待をもって味わわれてしまっては、口にした味は意外と大したことなく思われるような気がして、不安になった。

「おっ、これは……確かにお前らが騒ぐのも分かる。お世辞抜きにうまいよ」
「うん。これお店で出せると思う。美味しい」

 先ほどの二人に比べると幾分か落ち着いた反応ではあったが、澤村先輩も潔子先輩も口をそろえて「美味しい」と褒めてくれた。卵焼き一つでこんなに褒められるとは思っていなかった。丁寧にだしを取って良かったなぁ、なんて思う。

「美咲ちゃんと結婚するやつは幸せだな。こんな美味しいものが毎日食べられるんだもんな」
「よく気が付くし愛想もいいし、黒崎はいいお嫁さんになりそうだな」
「菅原、澤村。そういう発言、セクハラだから」
「えっ?! あ、そっか?!ごめん美咲ちゃん」
「い、いえ」

 その後も私のお弁当の中身は卵焼きの他にも飛ぶように売れていき、先輩達は申し訳なさそうに自分のお昼を分けてくれた。

 食事を終えると、その場で解散になった。マネージャーの仕事もまだ後でいいからと潔子先輩に言われ、なんとなくその場に残っていたら、同じように場を離れそびれた旭先輩が話しかけてきた。

「ごめんな、結局黒崎のお弁当ほとんど俺らが食べちゃったな」
「ふふ、いいですよ。先輩達みんな美味しそうに食べてくれたから嬉しかったです。……うちでは作ってもみんなバラバラに食事をとることが多くて。あんな風に食べた時の反応見ることがなくって、新鮮でした」

 普段、いくら料理の腕を振るっても、反応をもらうことはほとんど無い。姉は顔を合わせた時に、美味しかったと感想を言ってくれることはあるけれど。
そんなのが当たり前だったから、さっきの先輩達の反応は本当に嬉しかった。

「そうなのか……。で、でも、あんな美味しい料理なんだから、きっと家族の人も喜んで食べてると思うよ」
 
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