第23章 心はいつも、そばにある。
試合に勝つ為には、時として非情な選択をしなければならないのだろうけれど、いつものにこやかな菅原先輩が鳴りを潜めているのが気になった。
「次の試合は一時半からだからな。身体冷やすなよ!」
澤村先輩が皆に解散を告げ、部員達はそれぞれ昼食を取ったり、軽く体を動かしたり各々自由に行動するようだった。
「清水、美咲ちゃん、一緒に飯食おー」
さっきまでの様子が嘘だったみたいに、昼食のお誘いをしてきた菅原先輩はいつものニコニコした先輩だった。
「旭! お前も一緒に来いよ」
「お、おう」
菅原先輩の勢いに押されるように旭先輩が返事をして、皆で連れ立って外の芝生へ向かった。後から澤村先輩も合流して、三年生の中に一人混じることになった。
輪になって芝生の上に腰を下ろして、お弁当を広げると、菅原先輩がお弁当の中を覗き込んで目を輝かせる。
「お、美咲ちゃんの弁当うまそー!」
「今日も自分で作ってきたの?」
「はい」
「黒崎って料理上手だよな。合宿の時も手際よかったもんなぁ」
旭先輩に褒められて、少し恥ずかしくなって俯きながらお礼を言った。料理だけは自信あるけれど、面と向かって褒められると恥ずかしい。
「なぁなぁ、卵焼き一個ちょうだい?」
「はい、どうぞ」
「さんきゅー!」
菅原先輩は嬉しそうに卵焼きを受け取ると、大きく開けた口に卵焼きを放り込んだ。もぐもぐと数回咀嚼して、大袈裟に「うまい!」と感嘆の声をあげる。
「いや、なにこれ!めっちゃうまい!ちょっと旭ももらって食べてみなよ」
「え、でも黒崎のお昼ご飯なくなっちゃうから……」
「よければ、おひとつどうぞ」
「いいの? ……じゃあ、一つもらうな。いただきます」
丁寧に手を合わせて、卵焼きをつまんだ旭先輩の姿が可愛く見えた。小さめの卵焼きは旭先輩の口にぱくりと飲み込まれていった。菅原先輩と同じように、数回の咀嚼の後、これまた大袈裟に旭先輩は目を見開いた。
「……俺、卵焼きで感動したの初めてかも」
「だろー?! めちゃくちゃうまいよな!」
「お、大袈裟ですよ、先輩達」
「いや、これマジだから」
「そんなにうまいのか? お前らの反応見てたら気になるな」
「……私も」
四個あった卵焼きはあと二個。