第23章 心はいつも、そばにある。
「旭、美咲ちゃんの応援飛んでくるたび、二階席見上げてたもんなー」
「別にいいだろっ、う、嬉しかったんだから」
旭先輩の言葉に、ドキン、と胸が飛び跳ねた。
ほんのり赤い旭先輩の顔を見て、自分に都合の良いことを考えそうになる。
いやいや、旭先輩は応援が嬉しかったのであって。私の、応援だからとかそういうんじゃない、はず。
あの顔の赤みは、菅原先輩にいじられて恥ずかしいからであって、私に対して何か特別な感情を持っているとか、そういうんじゃないはず。
どくどくと早まる脈拍をなんとか落ち着かせようと必死になった。
「俺も嬉しかったぜ! やっぱり女子の声援は力になりますよね、旭さん!」
「えっ、あ、そ、そうだな西谷。うん、女の子の声援があると違うな」
「俺もその気持ちめっちゃ分かります!なんかこう力湧いてきますよね!」
「だよなぁ、龍! 次の試合も応援頼むな、美咲ちゃん!!」
「はい! 任せてください」
西谷先輩達が話に入って来てくれて、正直ホッとした。変なことを考えずに済みそうだったから。あのまま旭先輩の赤い顔を見ていたら、多分うぬぼれてしまっていただろう。
そうだ、西谷先輩と田中先輩が言うように、普段経験しない応援だったから、旭先輩も嬉しかったんだ。今まで応援団とか、烏野の生徒が来ることも無かったのだろう。応援するのは部員達だけだったから、きっと新鮮な気持ちだったんだ。
心の中で何度も頷いて、自分の気持ちを落ち着けさせた。
何であれ、先輩達が喜んでくれたのならそれでいい。
まだまだ試合はこれから続いていくのだ。こんなふわふわした気持ちは心の奥にしまっておかなければ。
気を引き締め直して、私は皆と共にトーナメント表を確認しに行く事にした。
「……やっぱり、上がって来たな」
トーナメント表を見る澤村先輩達の顔がキッと真剣な面持ちに変わる。皆の視線の先にあるのは『伊達工』の文字だった。
旭先輩がバレーを離れてしまった、トラウマの相手。先ほど会った伊達工の二口さんはどこか軽い感じのする人だったけれど、旭先輩を見る目は闘争心に燃えていた。
『今回も覚悟しといてくださいね』
二口さんの言葉が頭をよぎる。前回の伊達工との試合は三月だったと聞く。そこからまだ約三か月しか経っていない。