第3章 急く心
「あ、そう、そうなんです!運動部、3年生は活動するのインハイまでって聞いて。そしたら清水先輩が引退するまで時間ないなって思って」
「そっかぁ。あ、でもバレー部は春高まで3年残れるから……っていっても全員残るかどうかは分かんないけど。進路のこととかあるし」
「えっ、春高…ってことは冬までってことですか?」
「うん。俺は出来たらそこまで残りたいと思ってる」
「じゃあ、旭先輩のスパイク、いっぱい見られますね!良かったぁ。それは嬉しいなぁ」
「っ、そ、そう?そんな風に言われるとちょっと恥ずかしいかも」
ぽりぽりと後頭部をかく旭先輩の頬が少しだけ赤い。
いかつい風貌なのに、こういう恥じらう姿は乙女のようだ。
「私、旭先輩とはまだ1日、それも部活の数時間しか共有した時間ないじゃないですか」
そう唐突に放った私の言葉に、旭先輩は少しだけ首をかしげてこちらの言葉の続きを待っている。
「清水先輩は私より長い時間を先輩達と共有してるんだな、って思ったら、すごく羨ましく思えたんです。私にはその時間はどうやったって得ることはできないって」
この場に菅原先輩がいたら、今の私の発言を『告白』と捉えたかもしれない。
自分でもそう捉えられてもおかしくない、と発言しながら思う。
けれど目の前の旭先輩は変わらない表情でじっと私の話を聞いてくれていた。
「だから、少しでも先輩と同じ時間を共有できるって思えたら嬉しくて」
笑ってそう言ってみせたけれど、これは完全に告白じゃあないだろうか。
幸いなのは旭先輩がそう捉えてないだろうことだ。
ポーカーフェイスじゃなければ、今の旭先輩の様子を見るに、私の淡い恋にも似た気持ちには気が付いていないようだから。
「……黒崎さんはさ、なんでそこまで俺に好意的になってくれてるの?」
言った旭先輩の顔が少し曇ったのが分かった。
どこか私の好意が重荷なような、困惑したような。
「あの、スパイクを打つ姿です」
その言葉に旭先輩はきゅっと唇を噛みしめた。
私は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
旭先輩のまとう雰囲気が少し重くなったのに気づく。