第23章 心はいつも、そばにある。
「……ま、まぁ、今のは凄かったな……けどよ、試合に勝つかどうかはまだ分かんねぇだろ」
「勝つよ」
公式戦を目にするのは初めてだ。烏野の実力がどこまでのものなのか、きちんと分かっているわけじゃない。
だけど、身内びいきとかそんなものを差し引いても、私は心の中で烏野の勝利を確信していた。
「……すげぇ自信満々で言うのな」
先ほど及川さんを引き留めていた岩ちゃん(あだ名だろうけれど本名が分からない)が、私をまじまじと見つめている。
どこからその自信が湧いてくるのか、と不思議そうな顔だ。
「はい!! うちは強いですから」
「言うねぇ。でも俺達は負けないからね?」
満面の笑みで答えた私に、及川さんが不敵な笑みを浮かべて応戦してきた。それに私も笑顔を返す。お互い目だけは笑っていなかった。
「田中、も一本!」
その声に私はコートへと視線を戻した。田中先輩のサーブが烏野コートへと戻って来て、西谷先輩がレシーブすると、日向が助走を始めた。
影山くんの手にボールが吸い付くように触れた瞬間、日向がグンと床から飛び立つ。
「はぁっ?! なんだアイツ、めちゃくちゃ飛んだぞ?!」
兄が驚いた声を上げた時には、影山くんの手から離れたボールを日向が床に叩きつけていた。コートに舞い降りた小さな烏に、試合を見ていた人は皆息を飲んだ。
「……お前のとこのチーム、めちゃくちゃだな。はは、面白ぇの」
兄が珍しく素の笑顔を見せている。先程の鬼の形相とのギャップに、及川さん達も驚いた顔をしていた。実の妹の私も、久しぶりに見た兄の裏のない笑顔に驚いたのは内緒だ。
試合はそのまま烏野優勢で進み、2セット先取で烏野の勝利に終わった。
試合終了の笛の音を聞いて、私は階下へ足を向けようとくるりと振り返ると兄と目が合った。
「お前の言った通り、勝ったな」
「でしょ?」
「今日はまだ、試合あんのか?」
「うん。勝ったからあと一試合」
「そうか。次はどことやんだ?」
「……トーナメント表確認しないと分かんない。私一度下に降りるから、また後でね」
「おう」
及川さん達も次は試合があるようで移動を始めていた。なんとなくその後に続いて、階下へ降りる。
「ねぇねぇ、名前だけ聞いてもいい?」
「えっ」
及川さんが周囲をきょろきょろしながら、こっそり耳打ちしてきた。