第23章 心はいつも、そばにある。
振り返らずに兄に返事をする。私の目はすでにコート上の旭先輩に釘付けだった。烏野も常波も、ぐるりと円になってそれぞれのコーチや監督の言葉に耳を傾けている。
「烏野、ファイッ!」
「オオ―ッス!!」
気合の入った声が上がり、コート上にメンバーがそれぞれのポジションに散らばっていった。
試合開始を告げる笛の音が響いて、常波側からサーブが上がる。
飛んできたボールを旭先輩が真正面でレシーブをして、ボールは影山くんの元へと綺麗に上がった。
田中先輩が一発目のスパイクを決め、雄叫びを上げる。それに続くように西谷先輩も負けじと叫ぶ。競い合うようにずっと叫び続ける二人を、澤村先輩と菅原先輩が𠮟りつけた。
ピッピ、と審判に注意され、澤村先輩は申し訳なさそうに頭を下げていた。
「なんだあいつら、面白れぇ」
兄は田中先輩達を見て、くくっと喉元で笑っていた。会場の他の人達も同じように、田中先輩がサーブに回ると指をさして笑っている。そんな会場の反応に田中先輩は少し恥ずかしそうにしていたけれど、力強いサーブを打ち込むとサッと表情が変わった。
常波がボールを繋ぎ、スパイクが飛んできた。ブロックに回った澤村先輩の手に弾かれたボールは凄い勢いで烏野のコートに落ちようとしていた。
あっと思った瞬間には西谷先輩がボールの落下地点にいて、ボールを拾う。
澤村先輩がアンダーでボールを上げて、叫んだ。
「旭!」
コート上の皆が旭先輩の名を口にして、ボールをエースへと託す。常波もそれに反応して、ブロックを三枚そろえてきている。
「あれ、止められるんじゃねぇのか?」
兄が後ろでそんなことをボソリと呟く。兄がそう思うのも無理はない。旭先輩の行く手をふさぐように、三人の選手が立ち塞がっているのだ。
けれど旭先輩はそんな三枚ブロックをものともせず、振り下ろした腕が見えた時には、ボールは派手な音を立てて床を飛び立っていた。
「旭先輩、ナイスキー!!」
二階席から声を張り上げると、ちらと目があった旭先輩が軽く手を上げてくれた。
「……なんだありゃあ……あいつ凄ぇパワーだな。ボール吹っ飛んでったぞ」
「でしょう?!旭先輩は凄いスパイカーなんだよ!」
兄が珍しく素直に感嘆の声をあげたものだから、思わず振り返って熱弁をふるってしまった。若干兄が引いているのが分かった。