第23章 心はいつも、そばにある。
旭先輩のマネをする菅原先輩の顔がおかしくて、思わず吹き出してしまった。私達のやりとりを横で見ていた潔子先輩も、くすくす笑っている。
「集合!」
澤村先輩の声に、菅原先輩と旭先輩は爽やかな笑顔を残して駆け出して行った。
エンドライン上に沿うような形で部員が整列していく。
いつまでもここでぼうっと突っ立っておくわけにもいかず、私は一人二階席へと向かった。
ほとんど観客のいない二階席。逆にそのおかげで、後方に遠慮することなく私は手すりの傍まで行くことが出来た。
身を乗り出さんばかりに下のコートを食い入るように見つめる。
エンドラインに並んだ選手の背中はどれも気合が入っているように見えた。右から数字の小さい順に並んだその背中を順にゆっくりと眺める。
初めての公式戦。一体どんな試合になるのだろうか。
緊張からごくりと飲み込んだ息の音が大きく聞こえたような気がした。
「あれ?キミ、烏野のマネージャー?」
先ほども似たような質問を投げかけられたような気がするなぁと思いながら、声のした方に目をやると、白いジャージに身を包んだ爽やかな好青年風の人物がいた。
ジャージに書かれた文字を見やって、彼が青葉城西の部員だと知る。
「はい、そうです」
「いいねぇ烏野は二人も女子マネがいて。……ここでの応援はキミ一人なの?」
「はい」
好青年の彼の後ろには、青葉城西の部員達が座って烏野のコートを眺めていた。うちの部より人数は多いようだ。烏養コーチが強豪校だと言っていただけのことはある。
そんな中、自分だけが1人ぽつんと二階席にいることが、心細く思えてきた。
旭先輩に『一人じゃない』と言われたばかりなのに。
「そっかぁ。それは心細いんじゃない? 良かったら俺の隣で…「おいクソ及川。他校のマネに絡むんじゃねぇ」
「酷い岩ちゃん! グーで殴るなんて酷い!」
岩ちゃん、と呼ばれた人物が、及川さんの後頭部に拳骨を見舞った。ゴツンと重い音がして、自分がされたわけではないのにその痛みを想像して顔をしかめてしまう。
「お前が絡みに行くからだろうが。悪い、コイツが変なこと言って」
「いえ……」
気にしていないことを示すために軽く手を振った。
「マネちゃん、名前何て言うの?」
「クソ川。お前懲りてねぇのか」
「やだ岩ちゃん、名前聞くくらい許してくれてもいいじゃん」