第23章 心はいつも、そばにある。
インターハイ予選、第一試合。
初戦の相手は、澤村先輩の中学時代の同級生がいる、常波高校。
特筆すべき対戦相手ではないのか、烏養コーチも特段このチームに言及することは無かった。
けれど、この会場に負けに来ているチームなんて一つもないのだと、烏養コーチは口酸っぱく何度も繰り返していた。
烏養コーチの言葉を嚙みしめるように、烏野バレー部の面々は試合前のアップに勤しんでいる。
誰一人として、相手を軽んじているような人間はいなかった。
飛んでくるボールの勢いを見れば、それは嫌でも分かる。
皆の気迫のこもったボールを拾って回っているうちに、公式ウォームアップ終了を告げる笛の音が響き渡った。
「美咲ちゃん。試合始まったら、二階席から応援お願い。……一人だけで申し訳ないけど」
「分かりました」
ベンチに入れるマネージャーは一人だけ、という決まりがあるらしい。それに加えてうちのバレー部は、部員数が少ない為、控えの選手もみんなコートで応援をするらしく、私は一人二階席から応援することになった。
見上げた二階席にはまばらな観客の姿があるだけで、烏野の生徒の姿さえ見当たらない。
敵情視察をしている他の学校の人がちらほら見受けられるくらいだ。
事前に『二階席で一人で応援することになる』と聞いてはいたが、やはり少し寂しい。そんなことを思いながら二階席へ向かおうとした。
とん、と優しく肩に触れられて振り返ると、額に汗を浮かべた旭先輩が立っていた。
「黒崎、お前は一人じゃないよ」
「えっ……?」
「心はいつも、そばにある。たとえ俺達と離れていたって、お前の心はそばで応援してくれるんだろ?」
「……はい!」
『心はいつも、そばにある』
昨日、自分が言った言葉だ。旭先輩に言われて少し気恥ずかしくなったけれど、心細く感じていた今の私にとって、とっても心強い言葉だった。
大きく頷いて、旭先輩に笑顔を見せると、先輩も満足そうに頷いた。
「おーおー! 旭、お前も隅に置けないなー! なにいっちょ前にカッコイイこと言ってんの」
「べ、別にかっこいいとかそういうんじゃなくてさ、黒崎が心細そうな顔してたから……」
「俺も言ってみてー。……お前は一人じゃないよ…うぁーダメだ!恥ずかしいわ、これ」