• テキストサイズ

【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第22章 邂逅


「何だよ、ライバル相手だからダメだって言うのか? 恋愛にはそんなの関係ないね」
「……(ふるふる)」

 青根さんは首を振るばかりで、一言も発しない。それでも二口さんは会話を続けていて、傍から見ていると会話が成立しているのかしていないのかさえ定かでは無かった。
私はそんな不思議な会話に口を挟めず、ただ黙って二人のやり取りを見ていた。

「じゃあ何だよ。あ、何、もしかしてお前も気があるの?」
「……(ふるふる)」
「んだよ。じゃあ俺の邪魔すんなよな」
「……困ってる。それに仕事の途中だ」

 青根さんは私の手にあるスクイズボトルを指さして、静かに二口さんに告げた。二口さんの目が丸くなって、あぁ、とどこか納得したようだった。

「悪ぃ。ドリンク作りに行くとこだったんだな。水場ならあっちだぜ」
「……ありがとうございます」
「あっ、待って。ね、名前。名前だけでも教えてよ」

 軽く会釈をしてその場から立ち去ろうとした私のジャージの裾を掴んで、二口さんが爽やかな笑顔を見せる。
名前だけならいいだろうか。何より早く仕事を遂行したいし、旭先輩のトラウマの相手と長々と話を続けるほど私は人間が出来てはいない。

「黒崎です」
「黒崎、ナニちゃん? 折角だからフルネーム教えてよ」

 ね?とまた二口さんは星が飛びそうな爽やかな笑顔を見せる。仕方なく下の名前も教えようと、口を開きかけた時だった。

「黒崎?」

 旭先輩の声がして、振り返ろうとした。
けれど、出来なかった。それまでにこやかだった二口さんの顔が一気に戦闘モードに入ったのが分かったから、目をそらせなくなったのだ。

 ゆっくりと青根さんが人差し指を私の後方へと向けて、ビシッと何かを指し示した。

「何だ、てめぇ」

 西谷先輩の声が聞こえて、振り返ると、青根さんの指差した先には、旭先輩の姿があった。
青根さんに突っかかっていこうとする西谷先輩を旭先輩が押しとどめて、青根さんの指先に旭先輩の真剣な眼差しがそそがれる。

 青根さんの無遠慮なその行動に、その場はしんと静まり返っていた。
無口そうな青根さんはもとより、旭先輩も黙ってその指先と対峙している。見えない火花が飛び散っているようで、とても私が口を挟める様子ではなかった。

 事態がようやく動いたのは、伊達工側の人物が声を上げた時だった。

/ 460ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp