第22章 邂逅
「ちょい、ちょいちょい! やめっ!」
確かに声はするのだけれど、その姿は青根さんと二口さんですっかり見えなくなっている。時折のぞく黒い癖毛が声の主なのだろう。
「やめなさいっ!!」
ようやく大柄な二人を押しのけて姿を現した黒髪の人物は、「すみません!」を連呼しながら力ずくで青根さんの指差しをやめさせようと必死になっていた。
けれどいくら彼が青根さんの腕を押してもびくともせず、とうとう横にいた二口さんに助けを求めていた。
二口さんは半分笑いながら要請に応じて、青根さんの向きを変える。
「すみませーん。コイツ、エースと分かると“ロックオン”する癖があって……だから、『今回』も覚悟しといてくださいね」
青根さんの背中を押しながら、こちらを振り返ってまた二口さんの顔は戦闘モードになっていた。
『今回も』ということは、二口さん達はやはり旭先輩のトラウマの相手なのだろう。
ちらりと見やった旭先輩の顔はいつになく真剣な面持ちで、伊達工相手にも負けない、負けたくないという気概に満ち満ちていた。
普段の旭先輩だったら目をそらしてしまいそうなのに、なんて少し失礼なことを思ってしまった。
旭先輩の中の、覚悟のようなものを垣間見た気がして、胸が熱くなった。
「あっ、それと黒崎ちゃん。次会った時はフルネーム教えてくれよ」
去り際にさらりと二口さんが言って、ひらひらとこちらに手を振った。さっきまで敵対心をメラメラと燃やしていたのに、その変わり身の早さにあっけにとられてしまった。
「ちょ、ちょっと、美咲ちゃん! 何ナンパされてんの! 駄目ですよ、菅原さんは許しませんよ?!」
「いや、私は何も……」
菅原先輩は肩を掴んだかと思うと、思い切り揺すってきた。がくがくと揺すられるまま、私はむなしい抵抗を見せた。
「気を付けないと! 男はみんな狼なんだぞ」
「え、ええ……?」
なんだか変なテンションの菅原先輩に困惑していると、澤村先輩が呆れた顔で菅原先輩を引きはがしてくれた。
「黒崎、ドリンク頼むな。俺達もうすぐアップに入るから」
「あっ、はい!!」
澤村先輩の言葉に、いまだに空のままのスクイズボトル達に目を落とす。ドリンクを作ること自体は簡単だけれど、12本という本数作るには少し時間がかかる。