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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第22章 邂逅


「え……それは……すみません」
「何事も無くて、良かったよ。あ、いや、俺も止めに行けば良かったんだけどさ」

 眉尻を下げて苦笑いする旭先輩の優しさに、胸がきゅうっと音を立てた気がした。

 自分が言われてたことよりも、私のことを心配してくれた旭先輩の優しさが心に染み込んでいく。
ささくれだった私の気持ちは、見事なまでにつるりと綺麗なものに姿を変えた。旭先輩の困ったような笑顔と、その優しい声を聞いただけで。

「すみませんでした、心配をおかけして。……どうしても、黙って見過ごせなくて。体が動いてしまって」
「……そっか。本当、気持ちは嬉しかったよ。俺のことで、あんなにムキになって怒ってくれるなんて思ってなかったから。でも一人で突っ込んでいくのは、無しな」
「は、はい」
「ん。じゃあこの話はこれでおしまい。な、大地?」

 私と旭先輩のやり取りを傍で黙って見ていた澤村先輩に、旭先輩が確認を取ると、澤村先輩は眉を持ち上げてやれやれといった顔をしていた。

「ああ。言いたいことは旭が言ってくれたからな」

 澤村先輩も、私が後先考えずに突っかかっていったのが心配だったのだろう。少し離れたところで様子見している菅原先輩も同じような顔をしている。
先輩達に心配をかけてしまったことを申し訳なく思いながら、私は頭を下げた。

「気を取り直して、行くぞ」
「はい」

 体育館の入り口の隅に一度全員集合の形をとった。
そこで部員達は着替えをするようで、私と潔子先輩はマネージャー業務を行うためにその場を一旦離れることになった。

「私は武田先生と用事を済ませてくるから、美咲ちゃんドリンクの準備お願いしていいかな」
「はい、分かりました」

 潔子先輩を見送って、水道の場所を探すことにした。
きょろきょろあたりを見回しながら歩いていたために、私は目の前の人影に気が付くのが遅れてしまった。
どん、とぶつかった感触に気付いた時には、その人影はすでにこちらを見下ろしていた。

「ごめんなさい!」
「……」

 即座に謝ったのだけれど、私を見下ろす人影は一向に口を開こうとしなかった。それどころか、遥か頭上からじぃっとこちらを睨み付けている。
私を睨む三白眼はもちろん迫力満点だったが、その人影はその上眉毛が無く、2メートル近い長身の男性だった。
 
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