第22章 邂逅
かばいだてすれば誰でも『女』認定をするような人間に、旭先輩が悪く言われていたのかと思うとさらに悔しくなった。
何にも知らないくせに、好き勝手言うなんて。
「お前もあいつに良いように使われちゃってるんじゃないの?そのうち風俗にでも売り飛ばされるんじゃない」
あざける様にそう言ってのける男子生徒に、腹の底から怒りがわいてきて、思い切り殴ってしまいたい衝動に駆られた。
名前すら知らないのに、なんでそんなことが言えるのだろう。
面白さだけを追求して、真実なんかどうだっていいというのだろうか。
「先輩はそんなことしません!」
「あーもう、分かった分かったよ」
「俺らが悪かった。ごめん。これでいいか?」
私の相手をするのが面倒になったのだろう、彼らは口だけの謝罪をよこした。全く悪いと思っていないのは明らかだったけれど、これ以上文句を言っても彼らから誠意のある対応は望めそうになかった。
「もう嘘を広めないでくださいね」
「分かった分かった」
念を押すと、また気のない答えが返ってくる。形だけの約束なのは目に見えていたけれど、それ以上どうしようも出来ずに、私からそそくさと離れていくジャージ姿を黙って見送るしかなかった。
「……あのな、黒崎」
静かに近づいてきた澤村先輩が、私に何か言いかけた。けれど澤村先輩の言葉の続きは、旭先輩によって遮られてしまい聞くことが出来なかった。
代わりに、旭先輩が私の目をじっと見て、諭すように話を始めた。
「黒崎、俺の為にありがとう。黒崎の気持ちはすごく嬉しかった。でも、あんなことしなくていいから」
「っ、すみません。出過ぎた真似をして」
そうだ。旭先輩の言う通りだ。
自分の過去のことを引き合いに出して、私はただ正義感を振りかざしただけだ。
あんな戯言なんか、放っておけばよかったのかもしれない。
変に騒ぎ立てて、余計に旭先輩を傷つけてしまったんじゃないだろうか。
おそるおそる旭先輩を見やると、何故か先輩は焦った顔をしていた。
「えっ、あっ、違う違う! 出過ぎたとかそういうんじゃなくってさ。さっきの雰囲気、なんか一触即発って感じに見えたから! 黒崎が傷つけられでもしたら大変だろ。なんかされるんじゃないかってヒヤヒヤしたんだよ」