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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第22章 邂逅


  私は声のした方を振り返った。遠巻きに旭先輩を見つめてコソコソと話しているジャージ姿の男子を見つけ、私は彼らを睨み付けた。

 好き勝手にありもしないことを、こそこそ隠れて言うような人間は嫌いだ。昔、自分がされたことがふと頭をよぎって、余計にそんな思いが強くなった。

 家の特殊な事情であれこれ言われることは、覚悟していた。けれど世間の人々は事実だけじゃ満足しなくて、いかに面白い話で盛り上がれるか、嘘も交えて話をどんどんと膨らませていくのが大好きなのだ。

 私の母親のことだけにとどまらず、姉や私自身も、男に媚びを売って生活費を稼いでいるなんて噂を、今まで何度されてきたことだろう。

 事実ではないと本人が否定して回れば回るほど、世間はそれを肯定と取るように出来ているらしい。その事に気付くまで、私はどれだけ傷ついてきただろうか。

 いくら旭先輩が見た目が少し高校生らしくないからといって、ありもしないことをあんな風に言われるなんて、我慢がならなかった。睨み付けるだけでは足りなくなって、私はとうとう旭先輩を指さして噂話をしている男子生徒へ向かって行った。

「えっ、黒崎?!」

 後ろで先輩達の声が聞こえたけれど、構わず突き進む。
見ず知らずの女子生徒がガンを飛ばしながら近づいてきたことに困惑したのか、当該の男子生徒達はその場で固まってしまっていた。

「今の発言、撤回してください」
「……はぁ?いきなり、何だよ」

 名乗りもしないでいきなり突っかかっていけば、こんな反応が返ってくるのも当たり前だろう。困惑しながらも、男子生徒の顔は不快そうな表情を浮かべている。
 その顔にさらに私の眉間の皴が深くなっていくのが自分でも分かった。

「根も葉も無い根拠のない噂を、あたかも真実のように口にしないで下さい。旭先輩はそんな人じゃありません」
「……旭?」

 悪評を口にする割りには、旭先輩の下の名前までは知らないらしい。それが余計に彼らが噂を鵜呑みにしているという事を明らかにさせていた。

「貴方が先ほど口にした“アズマネ”先輩のことです」
「な、なんなの、お前。あ、あれか? アズマネの女なのか?」
「はぁ?」

 謝罪や反省の色を見せることなく、そんなことを言われたものだから私は怒りを通り越して呆れてしまった。
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