第22章 邂逅
「ごめんね、東峰の隣じゃなくて」
何か大事な話かと思って耳に神経を集中させていた私は、潔子先輩の言葉にどこか拍子抜けした気分だった。
「もう!こんな時まで気を回さなくていいんですよ、潔子先輩!」
「そう?でもせっかく近くにいられるチャンスだし……」
「それは、まぁそうですけど……でもおかしいですから、私だけ部員の隣に座るって」
「ごめんね。何か上手い言い訳思いついたら良かったんだけど」
潔子先輩の顔は真剣で、今もなんとか都合をつけて旭先輩の隣に私を座らせようとしているようだった。
試合会場の仙台市体育館まで、車で30分程度。そんな短い時間の為だけに、そこまで頭を悩ませなくても…と私は思った。
潔子先輩の気持ちはありがたいと思ったけれど。
「話は変わるけど。昨日のみんなに送ったエール、すごく良かったよ。私まで泣きそうになった」
「!ありがとうございます!」
「……私は、本当にああいうの苦手でね。頑張れ、しか言えなかったから。あんな素敵な言葉で、気持ちを代弁してくれて嬉しかった」
そう言う潔子先輩の横顔はどこかほんのり赤くなっていて、いつもに増して綺麗に見えた。
私は潔子先輩にはずっと敵わないなぁとまた思い知らされてしまった。
潔子先輩はいつだって、その容姿と同じように綺麗な心持ちでいる。妬んだり、僻んだり、そんな感情を先輩が見せたことはない。
美人は幼少期から周囲が優しく接するから、本人も素直で優しい人物に育つ、と聞いたことがある。
潔子先輩もきっと、そうなんだと思う。……そんなことを考えてしまう自分が小さく思えて、また嫌になった。潔子先輩の隣にいると、卑屈な自分が顔を出してしまうようだ。
「……いえ、私より潔子先輩の方がすごいと思いましたよ、昨日の先輩達の反応を見て」
「……すごい?」
「だって、潔子先輩の『頑張れ』の一言だけで、みんな泣き出しちゃったんですよ?」
また、ちくんと胸が痛みだす。旭先輩の頬を伝う涙が思い返されて、あぁ嫌だな、と思う。
旭先輩はストラップにも泣いて喜んでくれたけれど、それはやっぱり潔子先輩の『頑張れ』があったからだと思うから。
私は、潔子先輩をライバル視しているんだろうか。先輩にそんなつもりはないというのに。それ以上に、旭先輩と上手くいくように色々と気を遣ってくれているのに。